3 千葉市の将来

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 本市は、昭和四十年に昭和五十年を目標年次とする「千葉市総合開発計画」を策定し、それに基づいてさまざまな施策を進めてきた。しかしながら日本経済の高度成長と期を一にした千葉市経済の飛躍的な発展に伴って市内生産所得、市民所得等の大幅な増加、産業の集中、また、首都東京の外延的拡大による人口の急激な膨張及び本市内外における大規模プロジェクトの実施などにより、市勢の進展は当初の想定を大きくうわまわる勢いとなっている。しかも今後、海浜ニュータウン、東南部住宅団地の造成、国鉄総武線の複々線化、京葉線の建設、東京湾岸道路の建設などの道路交通網の整備、千葉港の拡充、成田国際空港、九十九里レジャー基地の建設等々、本市の都市構造や都市機能に大きく係る大規模プロジェクトが目白押しに計画されている。そのため、本市をとりまく環境条件は当時の予測を大きくうわまわる変化をもたらし、それらに対応した都市づくりが強く要請されるに至った。

 また、今日都市が解決すべき緊急の課題として開発の大規模化による都市化の進展にくらべて、住宅・下水道をはじめとする社会資本投資が相対的に立ち遅れ、そのため生活環境の悪化や自然の破壊がみられ、快適な生活環境の保全、自然の保護など環境問題が大きくクローズアップされてきた。

 一方、都市化の進展や人口の増加は一面においては、旧来の地縁的・血縁的な束縛から人々を解放した、また経済活動が活発になったが、市民の精神的な緊張感や圧迫感の増大という都市特有の人間疎外現象を顕在化させた。そのため、犯罪の増加や地域社会に対する無関心層を生み出すようになった。このような地域社会の動向に対する反省から、市民参加、人間関係の復活などの欲求が高まった。行政の質的変化と共に、行政と市民の行動とのかかわりにも変化が生じた。このため市民の主体性の確立と、新しい時代に対応したコミュニティの形成がこれからの行政の新しい課題となりつつある。

 更に所得水準の向上、労働時間の短縮に伴って価値観の変化があらわれた。これは物質的充実から精神的豊かさを指向しており、市民生活のパターンは変貌しつつある。特に自由時間の増大に伴う余暇時間の増大は、余暇活動を従来の〝遊び〟的概念から人間能力の開発を主眼とした創造的余暇へと変化している。これに対応した余暇空間の確保は、新しい分野の行政サービスの準備が要請されつつある。

 また、都市計画的課題として、千葉市は近い将来人口が百万を突破することが予想される。このため千葉市は首都圏内の地域中核都市として業務管理機能を誘導してこれを集積し、六百万県民の県都にふさわしい都市機能を強化しなければならない。こうすることによって東京に埋没しない個性を持った自立都市の形成ができるのである。

 こうした千葉市をとりまく諸環境の変化を背景として、更に千葉市の歴史の上で画期的な百万都市の誕生という時代の到来に対処し、長期的な展望のもとに千葉市長期総合計画を策定することとした。新長期計画のめざすものは、千葉市の特性をふまえつつ、未来の都市が果たすべき機能、役割りを予見し、低下した機能の回復から新しい機能の創造にまで高め、現在と将来の市民のための都市、そして地方都市としての個性と特徴を発揮するように建設しなければならない。それは「魅力と風格のある都市」の形成であり、その理念とするところは「人間の尊厳」を重んずることである。

 そのための施策として「人間の尊厳」を基本理念とし、「魅力と風格のある」永遠の理想都市を顕現する具体的な都市像として、四つの都市像をえがき、これを達成するプログラムを明らかにしたのである。

 〔生活優先の人間都市〕

 経済の発展は物質生活の豊かさをもたらした反面、社会の歪みを出現させた。しかも今後とも進行する経済成長、科学技術の進歩は社会構造や人々の生活意識を大きく変革しつつある。その結果は合理化された職場、核家族の増加等人間疎外、人間性の稀薄化の傾向を強めてきた。

 こうした時代にあって都市がかかえる基本的な課題は、都市における人間性の回復と市民の安全で快適な生活の確保に努めることである。目標とする都市の姿は公害をなくし、交通戦争を解決し、更に生活環境の浄化を通して市民生活に安全を取り戻し、快適を与えることである。同時に社会の底辺にあって恵まれない人々のための総合福祉行政を強力に推進することである。

 また、新しい時代のコミュニティの確立、行政と市民意志との交流の中から、市民の連帯と市民参加の新しい道を開拓することである。すべての市民がそれぞれの生活の場において、生きがいと連帯意識、心の豊かさを求め得る高度な都市とし、生活優先の原則に立ち、人間が人間として尊重される場、人間の尊重をすべてに優先する都市、すなわち「人間都市」として質的な発展を目指すものである。

 〔緑と太陽の輝く健康都市〕

 われわれが住む郷土と生活は、現在ダイナミックな成長と変化の過程にあり、環境は激しい変貌を続け、また社会体制や都市も構造を大きく変化させつつある。こうした著しい発展と変化は、自然環境を破壊し、また大量生産・大量消費という大衆消費時代の到来は、おびただしい量の廃棄物等をつくり出し、自然と人間とのかかわりにおける生態的な循環にまで大きな変調を与えるような事態を招来しつつある。

 今日われわれに与えられた大きな使命は英知を結集してこうした人間の生命にかかわる自然の破壊に対し、公害を防除し、自然環境の回復保存、更に新たな創造に向って強い決意を明らかにし、環境に対する人間的アプローチに最大の努力を傾けることである。百万都市に向かって大きく伸びようとしている本市は、〝海に向かっていく広がり〟と、その後背地に〝広い緑の豊かな空間〟を持っている。この広大なオープンスペースは、今日の市民が共有するかけがえのない千葉市の財産である。その資質の活用は個性をつくり、大きな特徴を生むものである。未来に向けて秘められた力、豊かな資質と無限の可能性をもつ千葉市は〝千の葉っぱ〟に縁どられた若い空間の都市である。千葉市は豊かな個性を発揮することができる。この恵まれた資源を素材として、自然公園や貝塚、史跡などを基軸とした緑の系を確立する。かくて市民がしたたる緑と明るい太陽、清澄な空気の美しい自然と歴史的環境のなかで健康な生活のよろこびをおう歌できる「緑と太陽の健康都市」を目指すものである。

 〔未来を創る文化都市〕

 われわれが迎える未来社会は、その生活のある部面において、より複雑高度な管理化そして画一化が進行する反面、経済社会構造の変革に伴い、人々の精神的な指向において、さまざまな価値観、生活観が生まれ、多様化の傾向をも強めていくであろう。一方、労働時間の短縮、所得水準の向上、余暇に対する考え方の変化に伴い余暇利用は大幅に増加する。それは従来単なる〝遊び〟いわゆるレジャー的概念から、明日の活動のための再生産、創造、心豊かな生活のための余暇利用の観念が定着するであろう。

 そうした多様性の時代にあって都市が地域の人々に与えなければならないものは「生活文化」である。本市は県都として、千葉市民のみならず、広く将来の県民に対して開かれた文化の中心都市の役割りを果たさなければならない。そこには人々の多様な求めと選択に応え得る芸術・美術などの文化をはじめ、すぐれた歴史的遺構等人間の創造的な精神を涵養する文化的な環境を備え、人々がそこで〝明日の文化の創造〟に参加することができる。

 〔世界に伸びる多彩都市〕

 本市は県都として、行政・経済・文化などの中心都市として大きく発展を続けてきた。東京から四〇キロ圏の近距離に位置する地理的優位性は、古くから東京の影響を強く受け、本市の都市の性格にまで強く現わされている。このことは、本市を単なる商業都市・工業都市のパターンに律し得ないさまざまな機能・要素を持った複合的・多元的な性格の都市を形成させてきた。

 人口、産業の大都市圏への集中は、将来もなお続くことが予想され、首都圏なかんずく東京圏は、ますますこれらの比重を高めることは明らかである。このすう勢の中で、首都圏の影響を受ける環境条件のもとに百万都市を目前にした本市は、将来六百万県民をようする千葉県の県都として、行政・経済・文化・交通等、あらゆる分野の中心地としてますます大きな役割りを果たすであろう。県都性と自主性の特徴を指向しつつ千葉市は将来新しい時代にふさわしい都市の性格を形成して、情報・流通等の機能を強化していく。また巨大化する首都の業務・管理機能等の諸機能について、これを本市に好ましい方向で誘導して、集積の効果を高める。

 千葉市の都市構造において、将来の百万都市又は首都圏の東の副都心としての業務地域に適当な地区が発達していない。そのため最近に千葉県と千葉市は海浜ニュータウンの一部にこのような業務地域を形成する計画を検討しはじめている。それは海浜ニュータウンが千葉港の中央公共埠頭と京葉港との中間にあるというよい位置をしめているからである。このように後背部の成田国際空港を「空の玄関」に、前面の千葉港を「海の玄関」として、これを積極的に将来の発展の要素にとりこむことができる。こうして世界につながる〝国際都市千葉市〟への飛躍を進めていく。千葉市は国際的な性格と機能を強めながら、同時に世界の各都市と姉妹都市等の都市提携を広げ、相互理解と連帯に基づくピープル・ツウ・ピープルの市民外交を積極的に推進していく。かくて千葉市は世界の一員にふさわしい国際的な感覚と、教養を高めつつ、真に「国際都市」への飛躍をめざしていくことになる。このように千葉市は総合的、多層的な諸機能を兼備する多彩な都市の発展を目指すものである。