第一項 概観

452 / 546ページ

 古くから庶民によって愛され、力強い民衆のエネルギーになっていた祭りや民間信仰は、時代の進展とともに、次々と形を変えたり、まったくその形を消失してしまうことも少なくない。毎年夏、大鳥居のあった出洲海岸で行われた勇壮な神輿の海上渡御や、真菰で装った千葉神社の千葉舟、結城舟の往きかう華やかな祭礼風景などは、今はそのおもかげすらみることができない。先人が築き、守り続けてきた歴史の営みが、ひとつひとつ過去のものとなっている。

 しかし古い歴史をもつ町内を中心にして、祭りや信仰を守り育てていこうとする新しい動きも少なくなく、また団地などでは新しい形の団地祭りが誕生するなど、近年、祭りが再認識されつつある。

 だらだら祭りや、稲毛浅間神社の夏祭り、いくつかの神社に残る神楽舞いなどは、千葉市の代表的な神事であるが、ここには旧来の伝統や、素朴な祭祀の儀式、芸能が残されている。

 民間信仰についてみても、古い歴史をもつ町内には観音堂とか、み堂とかよばれるような仏堂があったり、ちょっとした道路ぎわに、梵天塚、庚申塔、野仏や、立派な記念碑、供養塔などが建てられているのをみかけることがある。

 現在のように文化も発達せず、娯楽にも乏しかったころの民衆にとって、祭りや芸能、そして講組織を中心にした信仰は、人々の生活のささえであったともいえる。小さな野仏が、開発の波に今にも押し流されそうになりながらも、必死にその姿を誇示しているようすをみると、いじらしく、民衆の力強い信仰のきずなや連帯感の深さが、ひしひしと感じられる。

 これら、市内の祭礼や民間信仰は、どこでどのように生まれ、どのような経過をたどって現在にいたったのか、そして今から未来へどのような歩みを続けるのであろうか。