結婚しても、すぐ、その家の正式な一員としては認められず、姑が年をとり、家事も万端を引きついで、主婦としての座を獲得するようになる。その第一は、子供、特に男の子を生み育てることであった。
(1) 妊娠
妊婦は、食事を台所ないし、別の部屋で、家族とは別にとる。妊娠中は、ねぎ、里芋は食べない。辛い物は、刺激が強く、油濃いものは、おできが出来易いので、食べてはいけないとされていた(院内)。
四つ足(牛肉・豚肉等)を食べると、三つ口の子供が生まれるといわれることもあった。
○ 安産祈願
安産の神様としては、子安様があり、各地に子安講がある。
犬のお産が軽いことから、犬を供養する。四里四方で、難産で死んだ犬を大切に葬る(土気地区)。
犬の死んだ家では、配り物を出す(内山)。
竜が崎の観音様にお詣りする(園生)。
安産のまじないとして、かまどの焼けた砂を水に入れて飲むとお産が軽いと言われた(園生)。
(2) 出産
○ とりあげ婆さん
昔、まだ産婆がいないころには、出産に立ち会ったのは、経験者で、その人のことをとりあげ婆さんという(園生)。
園生の場合と異なり、子供が生まれるとすぐ、取りあげの両親が決められ、子供が七歳になるまで、あずける形をとる。この仮り親を取り上げじいさま、ばあさまと呼ぶ所もある。古くからの親類や、出世した人に頼み、実際は両親のもとで育て、節句のときに、正座を張ってもらう(土気地区)。
○ 出産の方法
今では、寝産が多いが、以前は座産であった(園生)。
○ 後産の処理
出産後の汚物には、荒ぬかを入れ半紙に包み、その年の方角の良い縁の下や、人に踏まれない所に捨てる。捨て方が不完全だと、子供が夜泣きするという(土気)。
へその緒は葬儀屋が処分したり、巾着に入れ子供に持たせる(院内)。
後産は鬼門で人の踏まない所に、つぼに入れて置いておくと、胞衣屋が焼いてくれた(園生)。
○ 産湯の処理
その年の干支(えと)によって、方角の良い場所に、波を立てないように静かに捨てる(院内)。
屋敷の辰巳ないし、戌亥の方角で、太陽が直接に当たらず、きれいな所に捨てる(土気地区)。
○ その他の禁忌
四日、八日の出産を嫌った。
四二歳のときの双生児は厄落しが必要とされた(園生)。
三つ口の子供は、ある年齢まで、真綿で、顔をおおって育てた。
双生児のことを畜生腹といった(院内)。
(3) 産後
○ 食事
大体が、おかゆに梅干、塩、鰹節(かつおぶし)をかけて食べる。冷たい物や、生卵(院内)、生物(土気)は消化に悪いから食べてはいけなかった。ただし産前と異なり、産後の食事は家族と一緒にとる。
○ 産後の肥立ち
産前、産後の食事の粗末さがお産自体の体力の消耗と相まって、産後体が元どおりに回復するまで、かなり日数がかかったので、三週間は寝ているのが普通であった。
○ 祝い
実家から必ず、産着と鰹節がとどけられた。
○ 母乳
栄養が不充分で、母乳の量が少ないときは、産湯を捨てた近くに、水を入れたびん三本を立てておくと、乳の出が良くなるといった。また、紅嶽清水の水を一升びんにくんで来ると良く出るようになるともいわれた(院内)。