第六項 喪葬

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 家族の一員が死亡した場合、村や組全体が協力体制をとり、葬式が終わるまでのすべての仕事は、分担してとどこおりなく済してくれるのが慣わしであった。

(1) 臨終

 末期(まつご)の水

 どんぶりに水を入れ、紙を浸して死んでゆく人の口に含ませる。

(2) 納棺まで

 湯灌(ゆかん)

 死んだ人の体を、今はアルコールでふくが、昔は逆さ湯といって水の中に湯を入れたもので、体をふいて浄める。

 湯灌や、死化粧をするのは、親類の者が多いが、村の役の場合もあり、一番重要な役目であるため、三十三周忌の供養まで正座を張る。

 湯灌の済んだ後、洗面器に水を張り、手を洗い塩をふりかけ、手ぬぐいでふいて浄める。

 死者の装い

 死者に着せるのは、結び目のない糸でぬった経帷子(きょうかたびら)で、足に足袋と草鞋をつける。

 通夜(つや)

 なくなった晩、近親者だけで悲しみをわかつのがお通夜である。葬式に参列できない人もこのときに線香をあげに行く。

 僧侶が来て、枕元で経を読んでもらう。昔は、僧に米を三升ないし五升渡せば読経してもらえた。現在はお礼の多少で、僧侶の数や、経の長さ、内容が違ってくる(園生)。

(3) 納棺

 棺の中へ入れる物

 死者が男なら煙草入れ、女であれば身の廻りの小物を入れる(園生)。

 三途の川の渡し銭として六文銭を持たせる。

 かんじんよりを輪にして、一〇八個棺の中へ入れる。

 棺の蓋は砥石でうつ(園生)。

 棺の上に置く物

 棺の上ないしは、死者の胸の上に鯉口を切った刀を置く(院内)。

 刃物は死者の枕元へ置く所もある。これは猫が近づき、化けるのを防ぐとされている(園生)。

 棺の上に衣装(帯と着物)を載せておき、葬式のときに寺へ納める(院内)。

(4) 葬式の準備

 葬式の告げ

 電信電話のないころは、つげっと(告げ人)が二人で、葬式の日時について部落内の一軒一軒告げて歩いた。告げ人には、酒、玉子焼き、するめの御馳走をするのが、慣わしであった。準備の間にあわないときには、代わりに小遣いを持たせた(園生、院内)。

 世話人

 翌日、近所や親類で仏檀を作ったり、先に述べた告げ人としてつげに行ったり、寺へ打ち合せに行った(院内)。

 必要な金は、あらかじめ家の者がやや余分に渡すか、式当日の香典を明けてその中から必要経費を出すかして、会計はすべて世話人がとりしきる(院内)。

 穴掘り

 順番制ですることが多く、墓穴を掘り終わると、連絡係が、報告に走る。穴掘り人は、その場で酒を飲み、更に橋のたもとで水を浴び、帰って再び酒を飲んで身を浄めた。

 つじろう

 死者の家から寺の門までの道を寺道とかじゃんぼん道とかいう。その道に道しるべを置く。大根の輪切りを台に、割った竹をさし、ろうそくを立てたものを「つじろう」と呼ぶが、それを寺道にいくつか置いてくる(院内)。

(5) 葬式

 日時

 葬式の日取りは、死亡した日から中一日置く。友引きは避ける。

 葬儀の責任者

 その家の長男にはやらせず、組内から選ぶ(院内)。

 香典

 参列者は香典を必ず持って来る。

 近所の人々は、米一升を名前を書いた袋に入れて持って来た(院内)。

 香典帳は葬式係として親類の年頭がつける(園生)。

 出棺

 穴掘りの終わった連絡があると棺を出す。葬列は庭の中を右廻りし、地蔵様のまわりを三回まわる(園生)。

 葬列

 主になるのが旗持ち、僧、施主(位牌を持つ)、世話人(一人)、棺、膳札、身内の者と続く。役割りとしては旗持ち、棺かつぎ、太鼓持ち、どら持ち、棺の上の屋根を支える人、水、線香、花を用意する人などが必要である(院内)。

 埋葬

 棺を埋めたあと、線香を順ぐりに全員が三回あげ終わるまでは墓を離れない。供えた果物は会葬者がもらってゆく(院内)。

 埋葬するとき、年寄たちが念仏を唱える。これを「はやねぶつ」という(園生)。

 はしより酒

 会葬者が帰るときに浄めの杯を土間で飲ませることを「はしより酒」という(院内)。

(6) 葬式後の諸事

 屋敷の浄め

 葬式後、縄を張り渡し、墓地から帰って来た人を近所の人たちが塩をまいて浄めてくれる(園生)。

 死者の着物の処理

 人が余り来ない所で燃やすか、屋根に干しておき、墓地に捨てる(園生)。

 葬列者の着物の処理

 鉦や太鼓、どらなどを持った六人頭の着ていたさらしの着物は、子供が洗い寺へ納める(園生)。

 香典返し

 香典の額の多少によって、香典返しも異なっていた。

 他人の場合、まんじゅうを七つ入れ、さらし一反つけるのが多かった。親類には、餅だけというのが普通であった(園生)。

 大工への謝礼

 棺を作った大工には、浄めのため何日間かは仕事をしないので、五日分の手間賃を払った。大正年間で米三升が手間賃であった(園生)。

(7) 葬式後の供養

 はかつき(墓築)

 葬式の翌日、土と雑草で漸定的に墓を作り直す。これを「くしざんまい」という(院内)。

 近所の人が、翌日、竹の節を抜いた墓標をさしてくれる(園生)。

 初七日

 毎朝、初七日まで親類が集まり、墓参りをする(院内)。

 七日間、村人とも口をきかない(園生)。

 僧侶に読経を頼み供養する。

 しっけた餅

 三〇日目に寺へしっけた餅を持ってゆく。そのことから、無口の男の人を指して「おやじ、しっけた餅だ。」という(園生)。

 四十九日

 僧侶にお経を読んでもらい供養する。

 寺への礼として、「つと」をドシーンと音がするように、投げてくる(園生)。

 成仏

 一、三、七、一三、三三年とそれぞれ供養する。三十三周忌(年忌)が済むと始めて成仏できる。

 三三年目に杉の生塔婆を立てる。このとき、使う杉は二メートルくらいの三年木である(園生)。

 墓石

 墓石は三年目に立てることが多い。石屋が墓石の紹介をし、念仏の人々に開眼してもらう(園生)。