漆塗り

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   江戸川区指定無形文化財・工芸技術
   技術保持者      酒井 勉
 
 漆を刷毛で塗る技法を「きゅう漆」といいます。これに対し、漆を何層かに塗り重ねたうえを刃物で彫刻するものを彫漆または堆漆といい、色漆や金粉・銀粉を用いて文様を描くものを画漆といいます。この「きゅう漆」の職人を塗師といい、彫漆の職人を堆朱師、画漆の職人を蒔絵師と称していたようです。
 酒井勉さんは、1933年(昭和8)生まれ。15歳で塗師の道にはいり、年季奉公ののち、1958年(昭和33)に独立しました。1964年に江戸川区に移り、現在に至っています。
 江戸川伝統工芸保存会会員。1987年(昭和62)の第五回江戸川伝統工芸展(江戸川伝統工芸保存会主催)で教育委員会賞を受賞し、1990年(平成2)、同第8回伝統工芸展で江戸川区長賞を受賞しました。
 ホテルや高級料亭などで用いる漆器(和食器、什器)の製作のうち、下地と漆塗りをします。こうした注文製作の場合、木地はほとんど注文主から提供されます。おもな品目は、椀、八寸、重箱、弁当箱、懐石膳など。漆は天然の漆しか使いませんが、国産漆は高価すぎるのと性質が強いことから、大半は中国産漆を用います。現在、天然漆は日本産の生漆の生産量がきわめて少ないため、中国産の生漆を輸入して日本で精製したものがふつうに使われています。
 刷毛は通し刷毛という漆塗り専用のもの。木の部分の元から先まで毛の通った「本通し」を使用します(半通し、七分通しという刷毛もある)。毛先が短くなったら、木の部分を自分で削って、毛を出し、そろえます。この毛は人毛です。
 漆は液体である間は特殊な薬品や溶剤に溶解して影響を受けますが、一度乾いてしまうと酸やアルカリ等の影響も受けず、熱や電気の絶縁性が強いという性質をもっています。塗った漆は、他の塗料のように太陽に干しても風にあてでも乾きません。湿った水分が蒸発する時に漆に作用して漆が乾きます。湿気で漆が酸化するのです。乾燥用の戸棚(木箱)は、湿った布で内側に水分を与えて密閉します。とくに冬は空気が乾燥するので、人工的に加湿します。作業中は、埃のたたないように、自分の吐く息にも神経をつかいます。