石のささやき

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石の時代
火山灰地の恵庭では、木や骨で作られた道具は土中で分解してほとんど姿を残しません。しかし当時の姿のままに残る石器は、土器と同じように人々の生活の様子を教えてくれる「手紙」のひとつです。北海道では旧石器時代から続縄文時代まで、さまざまな種類の石器が作られ、よく利用されました。たとえば縄文時代には「石鏃(せきぞく)」という矢の先につける石器が多く作られますが、このことから動物を獲るために弓矢が一般的になったことがわかります。また続縄文時代に見られる「靴型ナイフ」は、カムチャッカやアリューシャン列島からも見つかり、エスキモー文化とも結びつくサケ文化の広がりがあったことがわかるのです。

 
つまみ付きナイフ。
つまみはヒモをつけて腰につり下げるためのもの
石斧は、石を割って磨いた斧。
木を加工するときに利用された

矢じりとして使われた石鏃

鋭い歯がつけられたナイフ
ヤリの先につけられた石槍

ヘラ形スクレイパー。掻く、削る、なめすなどに使われたと思われる

縄文「工場(ファクトリー)」
先史時代の遺跡からは、現代の工場のような「ものを作る場所」が見つかっています。たとえば北海道の白滝は旧石器時代の「石器製造センター」として有名です。縄文時代に入ると、そのような「工場」は、石器に限らず食品や木器・漆器など種類も増え、場所も各地に広がっています。北海道でも、たとえば十勝平野からは「黒曜石工場」の跡が見つかっていますし、深川市の遺跡からは石斧作りにかかわる多量の遺物が発見され、縄文時代の「石斧工場」があったと考えられています。それらは高い技術を持った専門集団がいたことを想像させるのです。このような「工場」で作られた道具は、交易によって流通したと思われ、恵庭でも使われていたかもしれません。

 
旧石器

黒曜石ロ―ド、ひすいの道
これまで自給自足の社会と考えられていた縄文時代は、実は「工場」や「特産品」があり、活発で自由な交易がおこなわれていたことがわかってきました。その交易の道として有名なのが黒曜石とひすいのルートです。

黒曜石はガラス状の火山石で、鋭い刃を作ることが可能なため、旧石器時代から盛んに利用されてきました。日本に約六〇ヵ所の産地があり、北海道では白滝・置戸・十勝三股・赤井川が四大産地となっています。
 
恵庭で発掘された赤井川産の黒曜石で作られた石槍。
白い斑が入っているのが赤井川産の特徴

北海道産の黒曜石の道は、恵庭はもちろんのこと、東北地方やロシアのサハリンにまでいたりました。またひすいは「玉」として身を飾り、「大珠(たいしゅ)」として権威の象徴ともなりました。縄文時代のひすいの産地は新潟県の糸魚川周辺に限られていますが、恵庭のユカンボシE3遺跡から発掘された道内最大級の大珠を始め、北海道各地から糸魚川産のひすいが見つかっています。このような交易のネットワークは、他に秋田・新潟産の天然アスファルトやコハクなども知られています。
 
コハクの玉。
コハクは、植物の樹脂が化石になったもので、映画「ジュラシック・パーク」にも登場