墓と副葬品

数人を埋葬した墓
 遺体は頭を西に置き、手足を折り曲げて埋葬されていたと考えられます。歯や装身具の見つかった場所から、30号土坑墓で8人以上、118号土坑墓で4人、119号土坑墓で2人、123号土坑墓では5人が埋葬されていたと推定されます。

 
重要文化財
 合葬墓3基から出土した副葬品は一括して国の重要文化財に指定されています。内訳は、漆製品と玉、サメの歯、土器です。漆塗りの櫛や腕輪などの装飾品は縄文時代の漆技術を伝える貴重な資料です。

 
 調査した3,000m2の発掘区域に300基を越える縄文時代の土坑と5軒の竪穴住居跡がありました。このうち、縄文時代後期末から晩期初頭に残された墓(土坑墓)のなかに、赤いベンガラの粉をふりまいた独特な墓が検出されました。ベンガラをまき、基本的に楕円形に掘られた墓は30数基あります。死者に品物を副えて葬ることを副葬とよび、その品物を副葬品といいますが、このような副葬品を納めた墓が20基以上認められました。
 おもな副葬品のうち、漆製品では櫛52、頭飾り・額飾り10、耳飾り7、腕輪33、腰飾り帯2などです。漆製品以外では、滑石・コハク・ヒスイ製の勾玉や小玉の飾り玉、赤く彩色した土製の玉なども多く出土しています。このほか、サメの歯、長い石を磨きあげた石棒なども見つかっています。
 今あげた副葬品の大多数は4つの大きな墓から集中的にみつかっていて、その数は全体の7割を超えます。ここでは、漆製品を20個以上も検出した3基の墓について、その出土状況を紹介しましょう。
 

  


 
118号土坑墓119号土坑墓123号土坑墓30号土坑墓135号土坑墓
サメ歯石棒土器


118号土坑墓(径1.65×1.5m、深さ0.92m)
 歯の位置と装身具の出土位置から4人を埋葬していたと考えられます。墓の大きさから推測して手足を折り曲げた「屈葬」で埋葬されているといえます。埋葬位置と装身具の着装方法をつぎのように推定しました。最も南側の被葬者は髪に櫛を1つさしています。近くから漆塗りの輪が1つ検出されていますが、形状は腕輪とも髪飾りの輪ともつきません。墓の中央付近からたくさんの腕輪と櫛が検出されています。そのうちの南側には、頭の付近に櫛6個のほか、漆の小さな耳飾り、サメの歯の額飾りをつけ、さらに、胸に渦巻き模様の飾り、両方の腕に赤と黒色の腕輪を3個一組ではめています。また、手首に滑石のブレスレットを巻いていたようです。

 
 その北側の被葬者にも同じように両腕に2個から3個の赤と黒の腕輪をはめ、髪を櫛と漆の輪で飾っています。胸付近からやや小さな輪が2個重なって出土していますが、胸飾りなのでしょうか。また、腰の付近から小さなサメの歯がいくつも見つかっています。帯、または服の裾を飾った装飾品かもしれません。最後に、北東側の被葬者は頭を東側におき、髪に透かしのある櫛と透かしのない櫛を2個さして埋葬されています。
 

 

    


 

119号土坑墓(径1.65×1.4m、深さ0.65m)
 装身具の出土位置から2人を埋葬していたと推定されます。やや東西方向に長い楕円形に掘った墓の北側に1人、体を東西に向けて埋葬されています。西側においた頭の付近から櫛9個が集中的に検出されています。全てを頭につけたとは考えにくいですから、2〜3個を髪にさし、残りは周りに添えたのかもしれません。このほか、サメの歯のついた額飾りと、結った髪をとめたと考えられる髪飾り、耳飾りをつけ、首に滑石の首飾りをさげています。オレンジ色の輪と模様のある赤色の輪は左右の腕にはめた腕輪でしょう。

 南側にも同じ向きで一人が埋葬されています。頭に櫛とかんざし、コハク玉をちりばめ、両方の腕に赤とオレンジ色の腕輪を2個一組ではめています。また、腰の位置に腰飾り帯がありますが、これは服の裾につけた飾りかもしれません。
 

 

    


 

123号土坑墓(径1.65×1.58m、深さ0.91m)
 歯の出土状況から5人を埋葬したと考えられます。「屈葬」で埋葬され、頭位は4人が西側です。南西側の被葬者は、髪に櫛を2個さし、胸の付近に滑石やコハクの玉が散乱しています。その東側に、髪にピンクとオレンジ色の櫛2個をさして埋葬されています。この被葬者は頭位が東にあります。

 墓の中央付近には、滑石とコハクをつらねた首飾りをつけ、漆の飾り帯を腰に巻いた人物が埋葬されています。また、腰飾り帯の横から黒い腕輪が数個痕跡的に見つかっています。
 その北側の被葬者は、髪に透かし模様のある櫛を3個さしています。また、漆の輪4個をつなぎ、その真ん中にサメの歯を1個くくりつけた装身具があります。これは、幅の広い「ヘッドバンド」が存在していたことを推測させ、4個の輪とサメの歯はそれに装着して使用した額飾りの可能性があります。さらに、両耳にオレンジ色に塗られた漆塗りの耳飾りと、首には勾玉と丸玉の首飾りをさげています。北東側には、漆の輪と細い紐が長くのびていますが、紐は麗しい女性の髪を飾っていたのでしょうか。
 

 
123号土坑墓に埋葬された人の頭から首の装身具
 髪に櫛3個を挿して飾り、額には4個の漆の輪とサメの歯1個の額飾りをつけていると想像されます。漆の輪は、布製の紐かハチマキ状のものに糸で縫いつけて使用したものでしょう。このほか、オレンジ色の耳飾り輪と緑泥石岩の勾玉、琥珀玉の首飾りもつけていたようです。

 

    


 

30号土坑墓(径2.45×2.07m、深さ1m)

 

  


 

135号土坑墓

 

  


 

サメ歯

 


 

石棒

 


 

土器