シーボルト資料解説画面

 出島の三学者の一人として知られるドイツの医師・博物学者、シーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold、1796年2月17日 - 1866年10月18日)は、西洋における日本学の発展にも寄与しています。
 シーボルトが遺した貴重資料の一部は、福岡県立図書館にも所蔵されています。その資料である『日本』“NIPPON”、『日本植物誌』“Flora Japonica”、『日本動物誌』“Fauna Japonica” について、西南学院大学の宮崎克則先生に解説していただきました。

『日本』“NIPPON”

本文3冊 縦40.5×横31.5cm
図版2冊(豪華版) 縦60.3×横41.5cm
石版画 手彩色

 『日本』“NIPPON” は、1832年から約20年にわたって(1~13回配本)、オランダのライデンで出版された(最終的には1858~59年頃という)。少しオランダ語も混じっているが、ドイツ語で書かれている。発行部数は300部といわれ、最後は60部が出たに過ぎなかったという。『日本』は製本され出版されたのでなく、分冊(1~20分冊)で出版された。後に購入者が製本所に持ち込み、気に入った表紙を付けて製本した。『日本』に全体の目次はなかったし、通しのページ番号もなかったので、製本の過程でさまざまな異同が起こり、現存する初版『日本』に一つとして同じものはないといわれる。

 シーボルトは1866年にミュンヘンで死去し、『日本』などの在庫は婦人によって68年に処分された。それをロンドンで古書店を営むクォリッチが購入し販売した。福岡県立図書館蔵の本書は、クォリッチが販売したものであり、クォリッチが記した交合メモ(「COLLATIONS」)や「1852」年と記された内表紙が付いている。これらはクォリッチ版の特徴であり、「1852」年の刊期はクォリッチが付したものであり、実際の『日本』の刊期とは関係ない。

 『日本』の図版には大判・小判がある。大判は2折判(フォリオ判)、小判は(4折判)である。シーボルトが『日本』の図版のためにオランダのファン・ヘルダー社から購入した紙の大きさは、縦59.5×横79.0cmであり、大きな地図などはそのまま石版印刷されたが、通常の図版はそれを縦に切って印刷された(福岡県立図書館蔵本に、ファン・ヘルダー社の透かし「VANGELDER」「VG」が確認できる)。これが2折判(フォリオ判)であり、さらにそれを半切して4折判ができる。2折判の図版(総数367枚)は47枚の手彩色による色つき図版を含む豪華版(308ターラー)、4折判は色なしの廉価版(187ターラー)である。当時の平均的な労働者の年収は120~160ターラー、ケルン市の教頭の年収は500~700ターラーであったから、かなり高価な本であった。なお、九州大学附属図書館医学図書館には、未製本の豪華版『日本』がある。

参考文献:
宮崎克則『シーボルト「NIPPON」の書誌学研究』花乱社、2017年

『日本植物誌』(“Flora Japonica”)

1冊 縦40.5×横32.6cm
石版画 手彩色

 本文はミュンヘン大学の植物学教授ツッカリーニが分類学的所見をラテン語で書き、シーボルトはフランス語で植物の自生地・分布・栽培状況・日本名・利用法などを書いた。『日本植物誌』は2巻構成で、それぞれの巻に100枚の図版が含まれる予定であった。1巻の1~2分冊はミュンヘンの石版印刷所で作成され、1835年にオランダのライデンで出版され、1841年に完結した。翌年には2巻の第1分冊が出たが、1844年に2巻の第5分冊が出た後に中断する。そしてシーボルトが死去した後の1870年に、ミクエルによって2巻の6~10分冊が出された。

参考文献:
大場秀章「シーボルトと彼の日本植物研究」(『新・シーボルト研究』1 自然科学・医学編、八坂書房、2003年)

『日本動物誌』(“Fauna Japonica”)

4冊 縦40.5×横32.6cm
石版画 手彩色

 ライデンの国立博物館のテンミンクが陸上哺乳動物を、同じくシュレーゲルが脊椎動物を担当したように、それぞれの専門家によって研究・執筆され、1833年から50年にかけて5つの部に分けて分冊でライデンで刊行された。シーボルトの予定では、各分冊は図版10枚、本文3~4ページ、25分冊で完結の予定だったが、結局は43分冊となってしまい、無脊椎動物は甲殻類の部だけが完結し、その他は未完となっている。合計して313種が新種であり、日本を代表する動物がヨーロッパの学会に紹介された。

参考文献:
山口隆男「シーボルトと日本の自然史研究」(『新・シーボルト研究』1自然科学・医学編、八坂書房、2003年)

Information

 福岡県立図書館が所蔵する『日本』(“NIPPON”)、『日本植物誌』(“Flora Japonica”)、『日本動物誌』(“Fauna Japonica”)は、大正6年(1917年)に購入されました。代金4,000円は、安川敬一郎・麻生太吉の寄付金によるものです

解説者プロフィール

宮崎 克則

西南学院大学国際文化学部教授
九州大学 博士(文学)
専門は、日本近世史・異文化交流史・民衆史・シーボルト研究