鹿島郡京舎の濱漂流船のかわら板ずり

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【上段】
この様な文字が船の中にあった。
 
去る亥年の二月にこの絵のような船が沖に現れた。
 
しばらく見えなかったが、このたび、小笠原越中守様の知行地である常陸国かしま郡(茨城県旧鹿島郡付近)の京舎ヶ濱へ八月の嵐によって漂着した。
 
うつろ舟には女性がひとり乗っており、年齢は十九、二十歳程である。身長は約一八〇センチで顔色は青白く、眉毛や髪は赤黒い。身なりは綺麗で器量も良く、とても美しい女性であり、高くて、よく通る大きな声の持ち主であった。
また、約六〇センチの白木の箱を大切に抱え持ち、決して人を寄せ付けなかった。
 
〔船内には〕柔らかい敷物が一枚、肉のような練った食物、石には見えない美しい模様の入った茶碗のような物ひとつ、鉄には見えない火鉢らしき物があった。
 
【下段】
〔衣服について〕
錦のような織物で色は萌黄。こはぜは水晶。金の筋が入ったビロウド。
〔船について〕
縁は黒塗り。どれも木は紫檀、白檀。窓はガラス、水晶。
鉄で朱塗り。横幅は約五メートル四〇センチ。高さは約三メートル三〇センチ。筋金は南蛮鉄。
 
 
(船橋市図書館訳)