[一]はじめに

 本編は船橋市西図書館所蔵資料目録 第二集(昭和63年)Q-203(下総紀行)の翻刻である。表題に( )が付けられているのは、「文書の内容が把握できない場合」(同目録凡例)の仮表題の意であるが、今回の翻刻の結果、この文書は安房国嶺岡牧への紀行文であることが判明したので、以下「嶺岡紀行」と表題を改め解説する。
 本文書は未軸装の巻子本(=巻物、縦一七・五㌢、横一一二八・五㌢)で、古書肆から当図書館に納められたものであり、元々の保管者・保管場所などの出自は不明である。
 巻頭右上に「可不盡心守」という篆刻文字の朱印判が捺されている。『中庸』第三十三章に「学者其可不盡心乎」(学ぶ者其れ心を盡くさざる可けんや=学ぶ者は心を極め盡くさないでよいであろうか)とあり、これに因むと思われるが、未だ解明するに至っていない。
 更に、巻末裏に「鳥渡(注、ちょっと=少しばかり)申上候、玉代金八円也、右者延引致候」と墨書されているが、これも不詳である。