【三】膝栗毛・道中記のブーム

 『浮世道中膝栗毛 完』というのは、十返舎一九『東海道中膝栗毛』の初編の題名だが、はじめ一九は、主人公の弥次郎兵衛と北八のコンビの旅を、日本橋から箱根辺りで終わらせるつもりで、「完」と題して出版したのが、享和二年(1802)だった。ところが、予想外の好評で、翌年には二編を出し、三篇からは『東海道中膝栗毛』(以下『膝栗毛』)と改題して、八編の大坂で東海道の旅は終わるが、弥次・北の人気は衰えず、続編が、讃岐金毘羅詣・安芸宮島詣・木曽街道・善光寺道中・草津温泉道中とつぎつぎに出されて、主人公達が江戸に帰り着いたのは、二一年後の文政五年(1822)だったという超ロングセラーとなったが、この弥次北ブームを受けて、各地の多くの文人による「〇〇道中記」や「△△膝栗毛」などと題した類似作品や模倣作品が、続々と出された。