表紙に『文化十三年丙子弥生末 浜路のつと』、見開きに『栄呂院様御起草』と貼紙のあるこの『浜路のつと』は、著者が妻と思われる女性「とし子」とともに江戸を立ち、おもに房総半島南部を周遊した46泊47日間の旅の記録である。
親族を中心とした人々との交流や、旅の過程で興味を惹かれたことを中心に、品の良い雅文体で記されている。
また和歌を70首、発句を8句、唐歌を5篇挿入し、著者の述懐や、この時期の江戸と在村の文雅の交流の一端も記録している。
旅の過程は、逗留地と街道により3期に分けられる。
①江戸を出発し、とし子の故郷である今富村根本の家逗留まで(行徳船・房総往還・久留里道など)。
②今富村から館山の家逗留まで(大多喜街道・伊南房州通往還など)。
③館山の家から江戸の自宅まで(房総往還・千葉佐倉道・成田街道・行徳船など)。