土偶に見る呪術の世界

 縄文時代の遺物には、煮炊き用の土器のように実用的なものもあれば、土偶(人をかたどった土人形)をはじめ、具体的な使いみちのはっきりしないものも少なくありません。
 

金堀台貝塚出土の「みみずく土偶」。顔の部分だけが出土しました(高橋煕氏藏。縦5.6cm、横6.5cm)

 

飛の台貝塚の土獣。動物にも霊を感じたのでしょうか

 
 科学的知識と無縁の社会では、自然や自然現象は、おそれ敬う対象です。人間の力をはるかに越えた何ものかが世界を支配していると感じた縄文人たちにとって、呪いや祭りは欠かせませんでした。
 土偶は、大きな乳房など女性を表現したものがほとんどです。土偶には、生命を産む女性の不思議な力を得たいという願いが込められていると考えられています。子孫の繁栄はもちろん、食物が多く実るようにと作られたのでしょう。これに対し、石棒や石剣は男性を象徴し、狩りの祭りのための道具とも考えられています。
 興味深いことに、土偶も石棒も完全な形で発見されることはほとんどなく、意図的に壊されているものも多いようです。これら呪術的要素を持つ道具は、後・晩期の遺跡から集中的に見つかっており、縄文の採取経済の行き詰まりを表しているようです。