[監修者として]

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[近影]

監修者 北海学園大学学長 高 倉  新 一 郎
 『函館市史』の編集が新たに始められてから十年、これまでの間に二巻の史料編を刊行し、関係史料の重要なもの四十四編を活字化し、解説を加えたが、五十年、小島編集長の急逝に会い、頓座の危機を迎えた。しかし、幸いにして函館の史料に精通し、その方面では並ぶ者のない田畑幸三郎君を中心に編集陣を立て直すことができ、多くの道内市町村誌編さんを手がけ、その方面では第一人者である渡辺茂嘱託を責任者として、通説編第一巻・明治維新前までをまとめ、市史本巻第三巻目として世に送ることができた。
 『函館市史』は、函館の占めた行政上・経済上・文化上重要な地位から、また最も豊富に集められた史料から、もっと早くからまとめられるべきであり、また、絶えず試みられながら、余りに記すべきことが多かった故か、位置が府県と札幌を中心とする開拓地の中間に位して焦点を捕えるのが容易でなかった故か、多くの優れた部分史が編集発表されながら、通史としては、明治四十四年河野常吉氏によって編集された『函館区史』以来、それに続くものが生まれなかった。それを今度の第三巻の刊行によって道が開かれたのである。今後、完成まで、つつがなく進行することを祈る。
 この間、北海道を巡る環境は著しく変わり、昭和十二年『新撰北海道史』の完成を見、殊に第二次世界大戦後、史観は著しく変わり、史料も研究分野も比較にならぬ程豊富になった。従って新しい函館の通史も、それらを出来る限り吸収し、北海道教育大学函館分校の地理学教授瀬川秀良氏担当の自然環境の記述、函館博物館学芸員、考古学担当の千代肇君の筆になる先史部門等は、最新の北海道通史と称してもよく、渡辺茂君は最近頓(と)みに拡大・精緻となった近世の研究の成果をとり入れて、『新北海道史』が消化し得なかった新分野に切り込み、新しい記述を展開した。函館市史通史としての面目躍如たるものがあり、函館市史はもとより、北海道史研究の今後に貢献することが多いことを信じて疑わない。
 編集関係者の努力を高く評価したい。
    昭和五十五年三月