区入費

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 明治5年の大小区制導入により行政区画が区(大区)単位となり、各区の事務を取扱う所として「区扱所」が設定された。この区扱所の人件費(戸長町用掛小使などの月給)需用費(筆墨紙油備品などの費用)等の内部経費と同所が所管する道路の修繕費、共同便所の維持費、消防関係費などの経費が区入費と呼ばれることとなった。政府は明治7年4月18日に太政官達第53号をもって府県に対して民費課出の実情調査を実施している。民情把握には民費の多寡増減を掌握することは重要なことであった。この達で示された「民費」の内訳は、以下の通りである(明治7年『開拓使公文鈔録』)。なお※印は開拓使が「区入費分賦概則」を定める際に取り入れた項目である。
 
府県庁及出張所并倉庫等営繕費、懲役場内獄舎営繕費、※道路堤防橋梁修繕費、※布告並布達類入費、管内限達事ニ付 諸費、諸御用ニ付各庁正副戸長等出頭旅費、※区扱所諸費、※正副区戸長以下給料、国幤社並府県社郷村社営繕費、祭典並遥拝式費、府県社郷村社神官給料、検見下組及内見其外一切費、貢米金取集并納済迄諸費并貢米五里内運賃其外諸費共、山林調費、里程調費、地券調費、戸籍調費、徴兵下調費、学校費、病院費、教院費、※道路掃除費、※用悪水道費、暴漲水防費、井堰守給料、※消防入費、番人給料並諸費

 
 開拓使は4日後の4月22日に、独自にこの達書に則り民費調査を行うようにとの達書を出している(同前)。しかし開拓途上の北海道では民費負担力はまだまだ成長していなかったため、区戸長給料官費支給をはじめ官費支給の部分も多く、この太政官達書の民費項目は北海道の実情に会わないとの判断から、開拓使は翌5月23日の布達をもって区入費で取扱うべき項目の目安「区入費分賦概則」を示した。以下はその概則である。
 
        区入費分賦概則
一 扱所造営並修繕費
一 同所内需用ノ什器並筆墨紙炭油費
一 同所小使給料
一 掲示場建設並修繕費
一 道路掃除並便所入費
一 用悪水道小修繕費但新築並大破損ノ分ハ官費ノ事
一 消防入費
一 迷子棄児臨時手当入費
一 本籍知レサル者溺死行倒病気等手当入費
諸入費ノ分賦市街ハ小間割ノ法ヲ用ヒ、官庁学校病院官舎等皆相当ノ割合ヲ受、村落ハ毎戸貧富ニ随ヒ上中下三等ニ区 別シ之ヲ分賦スヘシ、但小間割並三等分賦ノ義ハ各所適宜ノ処分ヲ以施行致、追テ可届出事
地券調査済ノ場所ハ地価金ニ分賦スル等適宜タルヘキ事
毎区支消金額ハ毎月詳細表ヲ出シ翌月十日迄ニ之ヲ提示シ其日ヨリ十日以内ニ収納スヘシ、但造営修繕等ノ入費該区限 一時弁給致兼候分ハ其申牒ニ仍リ官金ヲ貸出シ、相当ノ月賦ヲ以テ上納可申付事
(『布類』下)

 
 太政官達では「区扱所諸費」「正副区戸長以下給料」とあったが、開拓使では区戸長の給料を官費支給としていたのを踏まえて、「扱所造営並修繕費」「同所内需用ノ什器並筆墨紙炭油費」「同所小使給料」と具体的に限定した項目となっており、「布告並布達類入費」「用悪水道費」についても布告並布達類の印刷及び用悪水道の新築大破損は官費対応ということで、「掲示場建設並修繕費」「用悪水道小修繕費 但新築並大破損ノ分ハ官費ノ事」と限定された項目となっている。さらに開拓途上の北海道には色々な人々が流入してくるということで、「迷子棄児臨時手当入費」「本籍知レサル者溺死行倒病気等手当入費」に2項目が特に加えられている。なおこの日、官費支給の区戸長総代の月俸についてもこれを明文化する達(第6号)が、「当分ノ内」という文言を付けて同時に出されている。
 またこの時、区入費の賦課方法についての考え方も示され、市街地と村落では別の方法を用いることとなった。市街地は所有地の間口を基本とした分賦法「小間割」が用いられ、地券が発行されるようになった(明治5年発行開始)場所は地価に分賦する法が認められた。村落については貧富の差を3等に分けて分賦する簡略法が用いられ、毎月の既支出分を翌月分賦徴収することが定められている。
 なお、この区入費分賦概則は明治14年5月乙第3号布達によって廃止されている。これは全国的には明治11年に地方税規則が布告され、地方に係る経費を負担する税を地方税としたことによって、翌12年中には「区入費」は「地方税」に置き換えられた(明治12年太政官布告第34号『法規分類大全』)。開拓使にあってもこの税則の考え方を取り入れ、広域な地方に係る部分を地方税、区町村限りに係る部分を(区町村)協議費とすることになっていくのである。