当地懲役場ニ於テ兼テ製造試験致候マッチ製造ノ儀、追々煉磨致シ良好品製出ノ見込ニ有之候間、今後盛大ニ着手相成候様致シ度、就テハ将来全道一般ノ貧民等ヲ使役シ業ヲ盛大ニ期セシムルノ目的ニテ、先以当地ニ於テ製造場ヲ一ヶ所ヲ設ケ当地貧民婦女子ノ別ナク之ヲ使役シ到底無産ノ民ヲシテ産ニ就カシムルヲ主意トシ、傍ラ懲役人ヲモ使役シ大凡一日百三十名ノ職工ヲ使用ノ見込候… (明治十一年「長官北海道出張中函館支庁伺上申録」道文蔵) |
ここで函館支庁としては玉林の試業にある程度目途がついたため、黒田長官来函の機会をみて事業拡大の方針をたてて伺いを提出したものであった。函館支庁は当初からマッチ製造を勧業政策の一環としてとらえたわけではなかったものの事業拡大が雇用と産業創出との観点で進めようとしたのである。
概算調書の見込を見ると開業時の建築費・器械購入費は3424円、初年度支出は給料・資材費等で1万3911円、収入は1万5120円、利益1208円とみて、翌年度の支出は1万4011円、収入1万5210円、利益1108円という計算をしており、製造高は年に3万5000ダースとし、概算では3年で原価償却するとしている。
伺いに対して許可する旨の回答があったが、経費節減のために再調査を命じている。この時に原材料は道内産品で賄うことが可能なものについてはできるだけ使用することを命じているが、それは黒田長官の道内の産業振興の意向を受けたものであった。設置の許可を得た函館支庁は玉林に命じて起業のための諸入用品や製造場図面等を調製させた。