函館船渠株式会社の乾ドック工事 『函館船渠株式会社四十年史』より
さて、船渠に関する重大な設計変更が33年にあった。その第一は「既定設計ニ係ル船渠築造用材料ヲ将来ノ保存ト工事ノ難易ヲ査覈シ、渠口枢要ノ箇所ノミ石材ヲ用ヒ、其他ハ石材代用トシテセメント混擬土ブルックヲ使用スルコトニ変更ス、本変更ニヨリ工費ヲ減ズルコト十八万二千余円ノ見込ナリ」。第二は「既定船渠容積ハ大約六千トン迄ノ船舶ヲ入渠セシムル設計ノ処、輓近大形船舶ヲ使用セル趨勢トナレリ、由テ将来ヲ考慮シ種々調査ノ末、大約壱万トン迄ノ船舶ヲ入渠シ得ベキ設計ニ変更セリ、蓋シ斯ク設計ヲ変更セシモ費用ハ僅ニ壱万四千百九十余円ヲ増スノミ」(『第八回報告』)である。
一万トンの船渠築造は素志なのであるが、「船渠掘さく工事ハ春来、人夫払底ノ為メ非常ノ困難ヲ来セリ」(同前)とあるように、人夫賃およびセメントの値上がりが激しく、「船渠ハ渠口其他ノ要部ヲ石造トシ、渠舟平敷等ハブロックヲ以テ築造ノ設計ナリシモ、船渠拡張等ノタメ工事費欠乏ヲ来セシニ依リ、渠身ノ大部ニ於テ深サ凡弐分ノ壱ノ上部ヲ当分木柵トナスコトニ七月廿四日ノ重役会議ニ於テ決議セリ」(『第十一回報告』)と深刻化して来る。