函館の場合はどのようであっただろうか。まず10年8月に内務省から「維新以来医術ヲ以テ該官庁若シクハ教授ノ任ニ当リタルモノハ、志願ニヨリ試験ヲ不須直ニ免状可交付」という達が出た時には、開拓使に属する病院の勤務医たちはこぞって、願書を出して開業免許を与えられている(明治11年「医術開業免許鑑札交附録」道文蔵)。その後政府は12年に医師試験規則を達し、全国的な統一をはかった。この時は学校を卒業したものは試験を免除された。しかし、開拓使は13年に開拓使布達第6号「管内於テ従来医術開業ノ者ハ試験ヲ要セス仮免状交附候条、願書可差出、他府県管下ヨリ来リ免状ヲ所持セスシテ開業セントスル者ハ、試験ノ上許可スヘシ」として、この時も従来開業医の試験の免除を認めた。これはいわば救済的な措置であり、特に西洋医学に暗い漢方医への配慮であったと思われる。この時に願書を出した医師たちの名前は「明治十三年医術仮免状交付願届」(道文蔵)にあるが、漢方医はもちろんのこと、函館病院の医師たちもその名を連ねている。15年以降の函館の医師の免許についての区分は表12-2にある通りで、内務省の免許を有する医師は20年代半ばでようやく5割に達した程度である。さらに、試験を受けたものとなると、ごく少数でしかない。試験を受けた医者が多くなるのは、30年あたりからである。
表12-2 医師免許種類
種別 \ 年次 | 内務省免許医 | 従来 開業 | その他 | 医師 総数 | 総数に占める 免許医の率 | ||
試験 | 卒業 | 履歴 | |||||
明治 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 | 1 11 … … 9 9 13 14 16 23 24 24 … … 32 27 30 25 | 12 2 … … 2 1 1 5 7 6 7 10 … … 10 10 11 1 | 0 10 … … 17 17 15 18 14 14 14 13 … … 9 7 7 2 | 43 52 … … 39 48 49 48 45 50 31 40 … … 7 29 28 2 | 2 3 … … 2 0 0 4 0 0 0 0 … … 0 0 0 0 | 58 78 … … 69 75 78 89 82 93 76 87 … … 58 73 76 30 | 22.4( 1.7) 29.5(14.1) … … 40.6(13.0) 36.0(12.0) 37.2(16.6) 41.6(15.7) 45.1(19.5) 46.2(24.7) 59.2(31.5) 54.0(27.5) … … 87.9(55.2) 60.3(37.0) 63.2(39.5) 93.3(83.3) |
『区役所統計概表』『函館区統計表』『北海道衛生年報』より作成
( )内は免許医のうち試験を経たものの率