北海道新聞の社説(九月九日)

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  亀田市合併の前提条件
 亀田市議会は七日、函館市に編入する合併議案を賛成多数で原案通り可決した。函館市側はすでに三日の市議会で同議案を可決しており、紛糾に紛糾を重ねてきた合併問題も、ようやく十二月一日に実現の見通しとなった。
 しかし、亀田市内では住民投票に関する直接請求や道議会に対する反対請願などの動きもあるため、合併をみるまでにはなお紆(う)余曲折はまぬかれないようだ。
 合併問題がこうまでこじれた原因の一つは理事者のあいまいな態度にある。亀田市の吉田市長は、これまで「合併方式は対等か、編入か」という野党の質問に対し、「対等合併」を操り返してきたが、それがいつのまにか精神論に変わり、編入合併を認める結果になった。外に向かっては対等合併をほのめかしながら、かげでは、編入合併を認めるといったあいまいな態度が、住民をまどわせ、紛争を広げる一因になったように思う。
 原因はそればかりではない。合併の基本となるべき両市合併後の新市建設事業計画の策定が遅れ、しかもその内容にもまだ多くの疑問点が残されていることも問題をこじらせた大きな原因である。
 亀田市域振興建設計画は、亀田市側の強い要望で当初原案より百八十億大幅に上積みされたものの、中味は起債、つまり借金に多く依存している。このため、果たして計画通り事業が実施できるかどうかがあやぶまれている。また、道路や下水道、保育所、学校施設など住民が最も関心をもつ建設事業が削られ、亀田市の当初の計画とかなりへだたりがあることも、反対派を勢いづけている要因の一つである。
 したがって、合併をスムーズに実現させるためには、振興計画をさらに練り直し、住民の不安を取り除くことが欠かせない要件である。とくに両市合併協議会の合意事項の中で、唯一の継続事項となっている難問の衛生センターの建設事業については、慎重な配慮が必要だ。
 衛生センターは、これまで悪臭、汚濁の公害が伴うだけに、どこの市町村でも「きらわれ者」となっている。「力関係」によって、強引に設置箇所を決めるようなことはあくまで避けるべきだろう。
 市町村の合併は、過去の例が示すように、ややもすると都市部のみに力が注がれ、農村部やへき地帯がおろそかにされがちだ。このためかえって、地域格差が深まり、住民の間に対立をかもし出している。とくにこんどの合併は、亀田市が函館に編入される合併方式だけに、いっそうの危険がある。合併によって産業基盤の整備が促進されても、住民に対するキメ細かい行政が行い得なくなったのでは、合併の目的に反しよう。
 一方、反対派も不満はいろいろあろうが、一応、市議会で合併議案が可決された以上、反対運動にもおのずから限界があることを知らなければならない。現在「合併にあたっては住民の意志を問え」という条例制定(住民投票)の直接請求運動が起きている。
だが、すでに市議会で合併が決まった今日、たとえ、直接請求が成立したとしても、その効果は疑わしい。合併問題に対する「市民参加」を真に望むなら、なぜもっと早い機会にそうした直接請求の運動を起こさなかったのか。率直にいって、せっかく与えられた住民権利の行使時期を誤ったという印象がぬぐえないのである。
 もちろん、今後になお道議会に対する請願、その他残された道はある。だが、いたずらに感情論やメンツにこだわり、これ以上、市を混乱に導くような行動は賛成、反対両派とも慎むべきであろう。