底生動物群と生息場所

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 海産動物の生態は生息場所と深い関係にある。動物の生活にとって最も重要な条件は餌と安全の確保である。より多くの餌を得て早く成長することは多数の子孫を残すための戦略であり、いかに捕食者から逃れるかは直接的な生き残りにかかわる条件である。このような観点から銭亀沢における海産底生動物の生息場所をみることにする。
 砂浜海岸は銭亀沢付近にごく普通にみられ、沿岸にはスナガレイ、マガレイ、マコガレイ、イシガレイなどのカレイ類やハゼ、ツマグロカジカなど、砂泥底を好む魚類が多く、岩礁が点在する場所ではアイナメなども生息する。また、志海苔付近の平磯では、岸辺近くの岩盤上の窪地に砂の堆積があり、アサリやヌノメアサリなどの二枚貝が生息している。砂浜海岸の入江の渚には波浪と潮流によって千切れ藻が多量に堆積し、この厚い海藻マットの中にはヨコエビ類などの節足動物、巻貝類、ゴカイ類などが多数生息している。
 岩礁海岸は黒岩と志海苔付近の平磯にみられるが、干満差によって海面に出没する広大な潮間帯をもつ。ここは底生動物にとって恰好の生息場所である。平磯には多くの「潮だまり」があり、干潮時にも乾燥を免れるため、イソギンチャクなどの腔腸(こうちょう)動物、ウニ、ヒトデなどの棘皮(きょくひ)動物、イソガニ、ヤドカリ、フジツボなどの節足動物、イガイなどの付着性二枚貝類、タマキビ、クボガイなどの巻貝類、カサ貝類、ウミウシ類といった軟体動物など、匍匐あるいは固着生活する底生動物が多数みられる。また、動植物が密集した群落では互いの隙間や表面にも動物が生息している。
 平磯岩盤の高潮線付近に付着しているイガイ群落の隙間には多様な動物群が生息する。このような場所は干潮時にも乾燥から免れ、安全な隠れ家でもある。イガイ群落をバールなどで剥がすと、泥や砂とともにゴカイ類が発見される。
 また、ワカメ、コンブ類、ホンダワラ類などの大型海藻の表面にも実に多様な動物が付着している。ここにはワレカラ、ヨコエビなどの節足動物、コケムシ類、ヒドラ類などの小型動物群が生息し、ミクロ生態系の観をなしている。これら付着動物群は海藻と共生関係にあって、海藻を食べて害を与えることはないようである。付着動物群は海藻表面の小型藻類を適度に除去したり、海中のプランクトンを食べ、排泄物を肥料として海藻に与えているといわれる。
 銭亀沢地区の漁港の護岸や周辺の海岸線には投石やコンクリート製の人工構造物が多数みられる。岸壁、テトラポット、漁港内のコンクリート斜路面上には、フジツボ、イガイ、カキなどの固着動物が、また構造物の隙間や日陰には固着動物をねらうチヂミボラなどの肉食性巻貝類、付着藻類を食べるカサガイ、タマキビ、ヘソアキクボガイなどの植食動物類、イソガニ、フナムシなどの匍匐動物が生息している。