漁業者の生物認識に関する一般的考察

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 写真版をもとに面接調査をおこなった四名の漁業者についての海藻類と魚類の判定および識別能力は表2・3・6、7に示すとおりである。
 海藻類および魚類の認識において最も詳細な判定、識別、発見ができたのはDの漁業者であった。この人物は漁業形態でみると最も多様な漁業に従事していることから、日常的にさまざまな海産植物および動物に触れ、認識する機会が多いものと考えられる。また、Cの漁業者が特に魚類についての発見種数が多いのは、定置網漁業という極めて多様な魚類を漁獲する仕事に長期間従事していることが、生物認識を高めることに有利に働いていると考えられる。さらに、Aの漁業協同組合職員のように、漁業経験が豊富でなくても、漁獲された魚類を集荷、運搬、記録する過程で、多様な魚類の呼び名を耳にし、実際に目にする機会が多い場合にも、発見能力を高めるものと考えられる。このように、日常的な海産生物との遭遇の機会の多さがそれらの認識を高めるという仮説は、Bのような天然コンブおよび養殖コンブ漁業のみに従事する漁業者の海藻類および魚類についての認識が詳細でないことからも支持される。
 このような日常的な海産生物への遭遇の機会が、具体的に、どのような過程で漁業者の生物認識を高めるのかを、個別的にみていこう。

表2・3・6 海藻類についての漁業者の判定と識別の能力


表2・3・7 魚類についての漁業者の判定と識別の能力