銭亀沢付近に分布するイワノリ類はウップルイノリとスサビノリの二種、フノリ類はフクロフノリである。いずれの種とも冬季の寒い時期に、満潮時に辛うじて海水に浸るくらいの高い岩盤上に成育する。特にこの季節は干満差が大きく、大潮の干潮時には近郊の住民がイワノリやフノリを摘み採る姿が見られる。漁業者はイワノリ類を区別し、大型で岩盤上に付くものを「べたのり」、イガイの貝殻上に付く小型のものを「いわのり」と呼んでいる。
フクロフノリが盛んに採取されるのは十二月末から三月までである。この時期を過ぎると藻体が太くて堅くなり、不味となるので敬遠される。イワノリ、フノリ類の用途は、現在では生産量が少ないので、生鮮ものとして少量は市場に出されるが、漁業者が自家消費することも多い。両種ともに若く柔らかいものは澄まし汁、みそ汁の具にされる。現在でも、イワノリ類が大量にとれた時には、簾に干し、板海苔に加工して販売しているが、量は少ない。焼いたこの海苔でおにぎりを包むと風味が良く、市販の養殖海苔とは比較にならないという。
最近、イワノリ類の生産が少なくなった。その背景には、養殖ノリの増加で価格が安く、天然イワノリを採る人が少なくなったこともあるが、人工海岸の増加で好漁場の平磯が少なくなったことや漁港内やその周辺の油汚染で油臭がつくなど、人為的影響も大きいようである。