海岸近くの磯でおこなう漁を一般には磯漁と呼ぶが、銭亀沢ではイソマワリといい、昔は「ナギマミ」といった。ナギマミは、ナギマともいい、その名の通り「凪間」を見る漁業で、凪の間を利用し、船から海底をのぞき見ておこなう漁といえる。この名称は、相当の年輩者の記憶に残るもので、現在では統計上の名称として「ネツケ」「ネツケ漁業」という言葉が使われることも多いが、まさに失われようとしている言葉である。これを、この時点で確認できたことは幸いなことであった。というのは、津軽海峡を隔てた青森県においても、近年の調査で、陸奥湾内の野辺地、脇野沢、川内などの地域に、磯漁のことを昔は「ナギマミ」、人によっては「ナガミ」と称する事例を確認しているので、人や漁業技術の伝播を知るために「ナガミ」は、今後重要な意味を持ってくるものである。
ただしここでは、現在もっとも一般的に用いられているイソマワリを、銭亀沢における磯漁を表現する言葉として、使用していきたい。
イソマワリには、アワビ、ウニ、ツブ、テングサ、タコ、コンブ、ワカメなど多くの種類があるが、コンブ、ワカメをイソマワリに含めない考えもある。
イソマワリは通常一人で作業をする。これは熟練を要する技術で、その様子はトモ(船尾)の左舷から身を乗り出し、口でガラス(ガラスは箱メガネのこと)をくわえ、右手で右舷のクルマガイ、右足の膝(足にツマゴを履いていた頃はツマゴにクルマガイを固定した)で左舷のクルマガイを操作しながら海中をのぞき、とる時には右手のクルマガイをはなし、両手でホコを使うというものである。
作業の位置は、地域や時代によってはオモテ(船首)の右舷でおこなうこともあり、一定していない。
函館市住吉町では、イソマワリをソコミ、イソミといい、オモテの右舷で作業するのが普通で、体の小さい人はトモの左舷で作業する場合があるという。
また、近年ではイソブネに二人乗りで漁をすることが多く、漁場までは二人でクルマガイを漕ぎ、漁場に着いてからは、一人がオモテのクルマガイを操作し、もう一人がトモの左舷で作業する。これをトマイト、またはトモドリという。二人乗りは昔からある方法で、オモテの右舷で作業するときには、トマイトはトモでクルマガイを操作する。二人乗りの場合は「トマイトがついた」という言い方をする。トリテ(取り手)はガラスで海底をのぞき、ホコは左手で持ち、トマイトには右手で合図する。
トマイトは、シオや風の強い日に乗せる場合もある。
ガラスは、箱メガネのことで、専門の人に作ってもらった。ガラス部分からの水漏れは、スギの柔らかい皮部分をマギリの先でつめて水止めとした。材はスギで、口でくわえるところは柔らかい木を使った。これは半年で取り替えた。
漁の種類によってホコの先にいろいろな漁具を装着する。ホコは下の方はカシ、上はアサダがよい。現在はプラスチック、ビニール、ステンレスなどを使用する。カシは高価で、函館の専門店から購入した。
磯漁はこのほかに、春早くにワカメをとった。また、刺網でタナゴ、アブラコ、延縄や釣り漁などさまざまな漁をおこなった。磯漁専門の漁師のことを別名小漁師ともいった。