三人兄弟-あと継ぎは兄(原題・ばか兄でも兄は兄)

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 むかしの、長者があったんだと。長者の息子が七人いて、兄がばかなんだと。長者が一番頭のいい息子にカマド持たせるといったど。「鍋に松笠一升で、一升の飯炊け」といったど。二番目が火付けて、ポロポロ、ポロポロとやったど。ところが煮立ちもしないうちに一升の松笠終わりだと。どれ見たって同じいんたやり方だと。一番仕舞いに、「兄、汝炊け」つていったど。兄が「よしよし」といって、松笠一升どっとくべてしまったど。どっとくべたところが今度一回で燃えるべさ、一升だもの。ガタガタ、ガタガタとこの勢いよく煮立ったと。燠がのっこりたまるべさ。燠で飯炊けたべさ。「さあ、お前ら飯食え」とどんと一升鍋おいたと。家の人たち「おお、やっぱり、なんぼばかでも兄は兄だな」といい、兄が跡取りしたど(蛯子政蔵談)。(『通観』№342)
 
 銭亀沢では、生業は漁業が多く、古くから家業の継承を目的とする長子相続が基本であった。消え去った多くの昔話のなかで、「ばか兄でも兄は兄」が生き残って伝承されたのは、人びとの心の深層部で長子相続を是とするものがあったからである。