ニシン場へ行っての話だけど、若いもん七人だか八人連れて山へ漁に使う木取りに行ったんだ。道路ずっと行ったら大きな木の根株があったんだ。やや真ん中辺りにあったんだと。大したいい根っこの木なんだってね。若い衆がそばに寄って「随分いい根っこだな。何かにならないもんだかな」つて一所懸命撫でたりなんかして見ていたところへどっと来て、「おお、なるなる。邪魔になる。邪魔になるから脇によけれ」といった(岩川辰五郎談)。
これらの話は日常どこにもありそうな笑い話が誇張され人から人へ、村から村に伝わり、繁次郎話を形成していったものと考える。仕事、生活上の苦しさを、笑うことによって多少とも解消し、活力を得たものであろう。この地方では、「繁次郎みたいだ人だ」というたとえ(比喩)があり、これはとんちのいい人をさしている。