ガニ節またはジョコ節(女工節)

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 資料5  ガニ節またはジョコ節(女工節)
  その1
   (問いかけ)憎いあの野郎のムガ(むか)面見れば/山で葡萄食った猿の面/(答)猿の面でも心配するな(心配しゃんすな)/連れ添うお方がちゃんといる/(アリャお前なんぞに惚れやせぬ あーナットナット)
  その2
  高い山から煙突見れば/男持つなと書いてあるけれど/男持たねばシャバ立たぬ
 
 ガニ節(女工節)が生み出され、歌われる背景や事情について石田キヨエは次のようにいう。「女の仕事は、辛くてもガニサイグ(蟹の缶詰作りのカムチャツカ方面への出稼ぎ)しか当時はなかった。女工さんは、親方から”仕事中は話をするな”ときつくいわれていた。それは、話をすると不思議と手の動きが遅くなることがある。それに比べて歌は、歌っても手が遅くなることはない。仕事の辛さ、喧嘩した時や気に喰わない人への当て擦りなどを歌に託して歌ったものが多い。例に出した歌詞は、対面して仕事をしてる女工同士の歌のやり取りである。誰に向かっていう内容か分からないように歌った。こうしたやり取りが延々と続いたものだ」。
 譜例10は彼女の演奏した例だが、カムチャツカ数え歌とよく似た旋律である。中浜清一は「これと類似する旋律と替え歌のような歌詞の曲(軍歌)を軍隊時代に歌っていた」という。
 女工節は、個人同士や集団同士が、一つの旋律あるいはその変形の旋律にのせて、先に歌われた事柄に対する批評や感想を歌い返すさまざまな歌詞で、交互に歌い継いでいく問答の形式を構成法としている。このような歌唱形式を応唱形式という。女工節はこの応唱形式の一例であって、労働歌の典型的な形式である。「女工(ガニ)節にも旧節と新節がある」と中浜清一はいう。参考として松代菊江の歌った女工(ガニ)節を譜例11に示しておく。

譜例10 ガニ(女工)節


譜例11 ガニ節(女工節)