表2.8 恵山岬における月別平均風浪と平均うねり(統計期間1961~1990年)
ところで、海面を伝わる波は、普通われわれが「さざ波」と呼んでいるごく周期の短い波から、数日ないし何年という極めて長い周期の波まである。とくにその周期スペクトルのなかで著しいのは、さざ波・風浪・うねりなどの短周期の波と、潮汐(ちょうせき)のような長周期の波、その中間の長さの周期をもつ、津波・高潮・静振・サーフビート(surf beat)などの重力長波である。われわれが狭い意味で海の波というときは、短周期の波(周期が30秒より短いもの)だけを指している。恵山岬で毎日定時に観測され、0〜9の階級づけされるのは、この短周期の波の「風浪」と「うねり」である。
風浪とうねりは、その起因を海上の風に仰ぎ、両者はその形状によって比較的容易に識別される。すなわち、風浪は波の山が比較的尖って、険しく不規則な形をしているのに対して、うねり波は形がなめらかで、波の山も丸みを帯び極めて規則的である。風浪は直接風の作用下にあり、現在現場の風の応力によって成長しつつあり、また、維持されつつある波である。他方、うねりは風域で発達した風浪が風域外に出て遠くまで広まったもの、または風浪が、風が弱まった後に余波として伝わったもので、一般に外洋では風浪よりは波高は小さく周期がやや長い。また、風浪は海岸に達するまで表面波で、海底地形の影響を殆ど受けないが、うねりは波長がいくぶん長く、海岸の近くで波高が高くなり、海底地形によって屈折し「いそ波」となる。
以上のような風浪とうねりについて、判定された各階級の月別先の表2.8であるが、風浪の波高・波長が大きい月は1、2月並びに9月から12月、つまり秋季から冬季間である。とくに12月の平均風浪階級は2.4で最も大きい。一方、うねりが大きいのは8月〜10月で、盛夏から秋季にかけてである。年間を通じうねりの小さいのは4月〜7月で、なかでも6・7月はうねり・風浪共に小さく海面は穏やかなようである。
1961年(昭和36年)より32年間におよぶ観測の中で、月平均風浪・平均うねりの第1位は1965年(昭和40年)2月の記録で平均風浪4、平均うねり3を示している。この年2月の平均風速は5.1メートル/秒、最多風向西で、最大風速13.2メートル/秒、最大風速時風向北西を示している。なお、恵山岬における最近30年間の2月における平均風速は、3.8メートル/秒であるから(表2.3恵山岬の気候表)、上記65年2月の平均風速5.1メートル/秒は平年に比べかなり強いものといえよう。
津軽海峡では、強い偏東風が吹くときに、風向と海・潮流の流向が反対になるため、潮波といわれる険しい三角波が立ちやすい。
1951年(昭和26年)〜1980年(昭和55年)の30年間における恵山岬の平均強風浪日数(気象庁風浪階級6以上の観測された日数)は表2.9(恵山岬における平均強風浪日数)に示したとおりである(海上保安、1988)。
表2.9 恵山岬における平均強風浪日数の平均強うねり日数
注)統計期間:強風浪日数 1951~1980年;うねり日数1961~1970年
この平均強風浪日数(全年)は、襟裳岬42.7日、奥尻島青苗岬41.4日、積丹岬16.2日で多く、恵山岬の6.4日はこれらの岬に比べ1桁少ない日数となっている。
北海道の太平洋沿岸では夏季の7、8月はうねりの大きな日が比較的多く、海岸ではいそ波が大きい。1961年(昭和36年)〜1970年(昭和45年)の10年間における平均強うねり日数(気象庁うねり階級6以上の観測された日数)は、年間6.9日である(表2.9)。この平均強うねり日数は、襟裳岬で年間44.4日を算え非常に多いが、恵山岬では平均強風浪日数と同様、1桁少い日数を示し、夏季間の強いうねり日数も0.2日/月と極めて少いことが分かる。