以上、荒井(1998)の火山地質学的研究により明らかになった、恵山火山の最近1万年間の噴火史を要約すれば次のとおりである。
約8ka 溶岩ドーム(円頂丘)および東麓に火砕台地を形成した。恵山活動史の中でも最も規模の大きな噴火活動のひとつで、この噴火によって恵山周辺の生態系は壊滅的なダメージを受けた。
約3〜4ka 軽石噴火によって発生した火砕流は火口原を1メートル以上の厚さで埋めた後、元村地区まで流走し、噴火後、堆積物として残る規模のラハール(火山泥流)が発生した。
約2ka 小規模な水蒸気噴火が発生した。
約1.3ka 溶岩ドームの山体崩壊が発生し、岩屑なだれおよび火砕サージが発生した。
約0.6〜0.7ka 水蒸気噴火によって火口原東部〜東麓に火砕サージが噴出した。
152年前 1846年(弘化3年)に水無沢火口で小規模な水蒸気噴火およびラハールの発生があった。ラハールにより死者有り。
124年前 1874年(明治7年)に大地獄火口で小規模な水蒸気噴火があった。
先史時代噴火のテフラ年代について、現在、C
最近1万年間の噴火活動は、元村噴火および火口原で堆積物が確認された小規模噴火に代表される。しかし、地質情報から1万年前より古い噴火活動を考えると、現在火口原で確認できる堆積物は、恐らく将来発生する元村噴火規模の噴火活動によって削られるか埋没してしまうだろう。そういった意味では、ここで構築した噴火史は解像度の高いものであると言える。しかし、一方では、小規模噴火のあと静穏期がしばらく続くのか、あるいは大規模噴火に移行する前に、さらに地質図に表れていない他の活動パターンが存在するのではないかという疑問も残る。
今後、火口原におけるさらに精度の高い調査を行うことによって、噴火事件が増えるかもしれない。特に、Es-4が挟在する炭化片の成因を解析することによって、Es-4.5などの記載がなされるかもしれない。また、今回は層序の構築に重点を置いたため、各噴火の考察が十分できなかった。さらに西部に分布する古いテフラの記載を行うことで、より多くの資料を基にした活動様式の考察や、噴火頻度についての議論が可能になることが期待される。