恵山火山の災害評価

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 荒井(1998)は、論文『恵山火山の噴火史と火山災害評価』の第2部「火山災害評価と防災対策」の中で次のように述べている。
 『火山災害予測が他の自然災害予測と異なるところは、予知の内容が「いつ・どこで・何が・経過・規模など」と多岐にわたる点である。「どこで・何が・経過・規模など」は地質や歴史記録の情報を基にすると、ある程度予測が可能である。第1部で示した恵山の噴火史を基に、これまでの災害実績を地図上に示した火山災害実績図(以下、実績図)、および現在の地形条件などを考慮した、火山噴火災害危険区域予測図(以下、噴火災害予測図あるいはハザードマップ)を作成した。地質調査結果を基にしてハザードマップを作成する理由および意義は、松島ほか(1993)が自然災害全般に対して記した文章を引用することによって示される。すなわち「自然災害の発生を完全に予知することは極めて困難なことであるが、自然災害を受けやすい土地をあらかじめよく知り、危険な場所にははじめから近づかないこと、あるいは危険が増してきた時、早めに避難することが災害防止にとって重要である(松島ほか,1993)。」また、「過去に自然災害が発生した場所は、災害が発生しやすい地形・地質条件を有していると考えられるので、再び同様な災害が発生する可能性が高い(松島ほか、1993)。」という考えに基づき、過去の災害(ここでは火山災害)の資料を収集・整理して、将来の災害軽減につなげることが目的である。』
 荒井(1998)によると、恵山では最近約2万年前の間に2回の噴火サイクル、すなわち、スカイ沢火砕流の発生・スカイ沢山溶岩ドームの形成サイクルと、恵山溶岩ドームの形成を含む現在までのサイクルが認められている(図3.18)。ここで、スカイ沢の一連の噴火サイクルは、規模と期間において、現在を含む元村噴火サイクル(仮称)や外輪山噴火サイクル(仮称)よりも小さなものである。一方で、Es-P3fl中の炭化木片の年代がC14年代測定によって、22,000年前頃(鴈沢ほか、1994)とされていることから、外輪山の噴火から元村噴火までの大〜中規模噴火発生頻度が高いことが窺える。なお、外輪山溶岩ドームの形成経緯などの不明点がある。複数ある溶岩ドームの形成が同時期かどうか、また、溶岩ドームの分布の仕方に比べて火砕流堆積物の分布が狭く、現在判っているよりも、倍以上の量の火砕物が噴出していることが推測される。
 噴出量からいえる簡略な噴火頻度と、おおざっぱな噴火年代の推定に基づいた時間−積算噴出量階段図(小山・吉田、1994、以下、階段図)から推定すると、2万年間に、107立方メートル以上のオーダーの噴火が4〜6回あり、最新のこのオーダーの噴火から1万年近く経過していることが判る。