防災対策

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 恵山溶岩ドームにおける噴気活動は現在も活発に続いており、100℃以上、230℃をこえる高温(1982年 火口X、no.1噴気孔の例)の火山ガスも噴出している。また、第2節 地震災害で詳しく述べたように、恵山の微小地震の活動は消長はあるが、一般に極めて活発でこれらの地震は恵山溶岩ドームにおける噴気・熱水系の活動に関係しているものと考えられる。
 以上のように恵山火山は、最新2万年間の噴火を通じて火砕流・火砕サージの噴出と溶岩ドームの形成をくりかえし、新しい溶岩ドーム形成後も水蒸気爆発を起こしている。現在の火山活動の状況は、粘性の高いマグマが火道を充填して、溶岩ドームを形成した後の“後噴火期”にある。この噴気・熱水系の活動は、過去200年間の記録を見ても、次第に衰退してきたとは見られず、火山構造から見ても当分は継続すると思われる。これまでも山頂部の噴気活動は消長があったようで、今後活発化すれば中・小規模の噴火の起こる可能性が考えられる。さらに、新たなマグマの上昇により、本格的な活動期に入ることも考えられるが、今のところ近い将来における活動再開の可能性は低いように思われる。
 以下、恵山火山が将来活動期に入った場合の噴火予測と防災対策について、地質学と地球物理学の両面より考察した、勝井ほか(1983)の『恵山』報告書から要点を引用する。
 『予測される恵山の活動としては、次のような水蒸気爆発と新しいマグマの上昇による噴火の2つの場合が考えられる。
 
(1)水蒸気爆発
 近い将来に噴火が再開されるとすれば、最も可能性の大きいのは1846年(弘化3年)のような小規模な水蒸気爆発である。山体崩壊を伴う大きな水蒸気爆発も考えられるが、その可能性は比較的小さいと思われる。噴火地点としては、恵山溶岩円頂丘(ドーム)の一部で、特に西側の爆裂火口と北東側の小爆裂火口およびその周辺が考えられる。噴火時期の予測は、これまでの活動記録に乏しいため困難である。1970〜1980年の噴気活動・微小地震活動は共に活発であるが、特に噴火直前の状態とは考えられない。噴火時期については、今後の観測により予測されねばならない。
 
(2)新しいマグマによる噴火
 恵山火山は新規(完新世〜現在)に入って、珪酸(けいさん)にやや富む石英普通輝石シソ安山岩質マグマ(SiO262%)が噴出している。この種のマグマは粘性が大きいので、火砕流を伴う爆発的噴火、厚い舌状溶岩の流出および溶岩円頂丘の形成などの活動をおこしている。恵山では、このような活動が既述のように過去1万年を通じ、スカイ沢山溶岩円頂丘の形成前後の2つの時期に発生している。したがって、将来、新しいマグマによる噴火が起こるとしても、その可能性(頻度)は極めて小さいであろう。また、もしこのような活動が起こるとしても、極めて長い休止期の後に再開されるのであって、噴火前に、前兆としての異常現象(地震、地殻変動、噴気・熱異常など)がかなり顕著に発生するに違いない。また、破局的噴火に至る前に水蒸気爆発が先行するであろう。