恵山町東部にあるこの地(以下、恵山と記)は、標高618メートルの溶岩円頂丘を最高峰とする複式火山の山塊で、標高300メートルを越えたあたりに最高峰の溶岩円頂丘、観音山(372メートル)、椴山(428メートル)、海向山(572メートル)、などの高地に囲まれた火口原がある。
過去に錘状の山体であったものが大爆発と噴出活動によって現在の山形になったといわれ、火口原側からみた円頂丘は今でも爆発によって大きく削られた岩肌が裸出し、幾つもの小噴気口から硫黄分の多い蒸気を噴出させている。
海に突出た山地のため、晴れた日に恵山の頂上(円頂丘頂部)に立つと眺望がよく、南に海峡を挟んで青森下北半島の山並み、北には噴火湾の向こうに羊蹄の山頂、また西には近くに横津岳山塊の山々を望むことができる。
この恵山は、火口原や円頂丘周辺に火山植生がみられること、また最高地が標高618メートルというあまり高くない山体なのに高山性植物たちが多いことでよく知られているが、これは、火山噴出物からなる荒れた表土(肥沃度が小)であること、海に面した地況とこの地域の気象条件から風が強くまた海霧が多いこと(夏季に冷涼多湿)、等が大きく関係すると考えられている。
恵山に分布する種子植物とシダ植物については、前記の恵山植物誌(1960年)により多種の植物の生育が報告されている。現在、その後の分類上の新見解などで、種としての扱いや分類の位置づけの異なりもあり、記載の種や数に多少の変わりもあるとみられるが、対象とした山塊部の約25平方キロメートルという面積からみて、その生育種はきわめて多種といえる。
この地域に生育する植物種が多いことについては、恵山が海に面する火山であるため、この山塊に限っても、海岸部があり、山麓には林地があり、上部は高原台地や火山礫地、さらに高山性植物が育つ環境にもあるなど、植物たちにとって多様な生活の場(環境)があり、それぞれの場に適応した植物たちが生育することにあると考えられる。
以下、植生状況から次の区分によって概説するが、海岸部の植生については、(1)海岸地域に含めたので略する。