(2)火口原台地と山頂部(円頂丘頂部)

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 恵山町側からの古くからある登山道は火口原台地の南側に出るが、その付近は台地のなかでも低い位置にあることで湿りの多い腐食土で、ヤマドリゼンマイ、オオイヌガンソク、ヤマソテツ、オシダ、ノハナショウブ、タチギボウシ、エゾカンゾウ、オオアマドコロ、サワアザミ、オオカサスゲ、アブラガヤなどの湿地性の高茎草本地となっている。
 歩を進めて海向山への分岐点を過ぎた付近から礫質表土の火口原草地となり、西側の椴山と海向山、東側の溶岩円頂丘との間を北に向って広がっている。その火口原台地は中央に南西から北東にかけて浅い低地がはしり、その西側はススキ、ササ、多種低木叢が混じる高茎草本の草地の様相であるが、東側(円頂丘側)は礫質土の裸地が目立つ地域で、ガンコウランとイソツツジを主とする群叢が裸地と縞模様をつくっている。
 この火口原から円頂丘頂上にかけては高地性、寒地性、また荒地性の植物の生育がみられ、その主なるものをあげると、ノギラン、ハクサンチドリ、ショウジョウバカマ、タカネノガリヤス、エゾノヨツバムグラ、オヤマリンドウ、ツマトリソウ、イワカガミ、イソツツジ、ミネズオウ、コメバツガザクラ、シラタマノキ、コケモモ、ハリブキ、ミネカエデ、マルバシモツケ、ミツバオウレン、ウラジロタデ、ミネヤナギ、ハイマツ、サンカヨウ、ガンコウラン、エゾシオガマ、ハナイカリ、ヤナギラン、ズダヤクシュ、ツバメオモト、クルマユリ、ヒメスギラン、等であるが、これらは風衝状の低地植物群も多種混生していて、典型的な高山の「お花畑」の様相とは異なっている。しかし、高地や寒地の植物に混じる平地の植物たちに、葉の肥厚や体の矮小化などがみられることから、この地の生育環境の厳しさを知ることができる。
 山頂(円頂丘頂上)は溶岩と火山性の礫であるが、窪地や岩陰にはイソツツジやガンコウランの叢とそれに混じってマルバシモツケ、コメバツガザクラ、ミネズオウ、エゾオオバコ、ウラジロタデ、タカネノガリヤスなどがみられる。しかし近年、ヘラオオバコ、エゾノギシギシ、ヒメスイバ、カモガヤ、など帰化種の侵入繁殖も多くなっているが、観光地としての宿命であろうか。
 火山植生に関って、古くに活動を終えた火山地で現在は山腹が多種樹木からなる林に包まれる海向山と、現在まだ活動のみられる新しい火山地(円頂丘地域)とが同居していることで、両地の現植生の対比で植生遷移の経過を時間差なく同時に目にすることができ、これも恵山のもつ特質のひとつといえる。
 ところで、この恵山の山塊全域は全国的にまた北海道としても数少ない貴重な「自然要素」をもつ地であるとして、「北海道自然環境保全指針」(1989、北海道)で「すぐれた自然地域」に選定され、次の「自然要素」について保護保存を図る地域となっている。
 
 自然環境保全指針に示された恵山の『すぐれた自然要素』
  全国的レベル…「火山植生」、「火山現象とその地形」
  北海道レベル…「分布上重要な植物生育地」、「中規模海蝕崖」
  道南部レベル…「天然林」「海岸植生」「水鳥類飛来地」「海鳥飛来地」
 
 指針では、とくに生育植物について「分布上重要な地域であり、自然と環境がそのままの状態で維持するために、周囲もふくめて厳正な保全が必要である」としている。
 尚、この地の高山植物植生を学術的に貴重であるとして、天然記念物地域にも指定されている。名称「恵山高山植物群」(1959年8月1日、町指定)。
 また一方、山体のほぼ全域が「恵山道立自然公園」にふくまれ、道立公園管理指針による管理下にある。
 登山や観光で訪れる人々の増加がみられる現在、今ある自然の維持保存をいかに図るべきか、地域民と行政及び関係機関が英知をもってその具体策を急ぐべき地域であろう。