最終氷期の最寒冷期には約85メートルも低下していた海水面は、寒冷気候が緩和したことによって氷河が融解しはじめた1万8千年前頃から徐々に上昇をはじめるが、氷河期の終末(1万年前頃)でもまだ現在よりも45メートル前後低い状態であった。気候の温暖化が急速に進むのは暖流の対馬海流が日本海に本格的に流入しはじめた約8千年前からのことで、この頃から海水面も急上昇し約7千年前頃には現海水面下10メートル付近まで上昇した。海は河川が刻んだ谷沿いに内陸に侵入し、海岸沿いの平野は次第に海に覆われることとなった。
約1万年前から8千年前頃には、気候の温暖化に伴って山地に後退していった針葉樹に代わって、平地や丘陵には温帯性落葉広葉樹のオニグルミやハルニレ・オヒョウニレ、キハダなどが進出しはじめ、氷期から残存していたシラカンバ・ウダイカンバ、ハンノキ・ケヤマハンノキとともに落葉広葉樹林が形成された。
北海道で縄文文化が始まった約8千年前頃にはミズナラ・カシワが急増し、海岸線沿いの地域ではオニグルミやシラカンバが主の森林からミズナラが主となった森林に徐々に交代し、約8~7千年前の間にはミズナラが主となった森林が河川沿いに内陸に拡大していったと考えられる。その後、道南の丘陵や台地上に分布域を拡大したミズナラや新たに進出したブナが主となった落葉広葉樹の森が、縄文文化の人々の生活の場となったのである。
気候の温暖化にともなった温帯性落葉広葉樹林の拡大は、そこに住んだ人々に様々な恩恵を与えることとなった。森に成育した樹木の中でよく利用されたのがオニグルミやミズナラ・カシワなどの堅果で、その他にもハシバミ・ツノハシバミなど堅果や、キハダやミズキ、ヤマブドウ、サルナシ・マタタビ、キイチゴ属などの果実の利用が始まった。まだ利用された証拠は発見されていないが、林床や草地には澱粉に富んだウバユリなどのユリ科植物が数多く分布したほか、やはり根茎が食用となったネギ属(ヒメニラ)、エゾエンゴサク、葉や茎を食料や繊維として利用することが可能な数多くの植物が分布し、それらの利用も開始されたと考えられる。