館町の長谷川病院の近くに豆腐屋があった昔、或夜のこと見なれないきれいな女が油揚げをたくさん買って行った。翌朝豆腐屋のおやじが銭函の中を見ると、木の葉がたくさんはいっていたという。この話を聞いた村人たちは、「豆腐屋のおやじが狐にだまされた」と噂した。
池田ミンという人が若い頃、山の方に畑をまいていた。ミンが或日畑の草取りに行き、草を取っていると、午後二時頃俄雨(にわかあめ)が降って来たので、家へ帰ろうと急いで山道を歩いて来る途中で、村では見なれない美しい女と会った。
ミンは「このあたりには、時々狐がきれいな女に化けて出る」という話を聞かされていたので「この女は狐の化けたものだろう」と思い、気丈な女であったので、その美女の足もと近くの草を鎌で苅った。するとその女は「ギャン、ギャン」という鳴き声をたて、狐の姿を現わし、草むらの中に姿を消したという。これはミンが老年になってからも時々村人に語った話だという。(大江栄作談)