原木の〓佐々木家は先祖安兵衛から七代位続いている家であるが、兼松から三代前の久次郎(文政一〇年生)が壮年の頃、嫁取の酒に酔って夜道を帰る途中、ワシリのあたりで友達と会った。
友達が「〓のオド、相撲とるべ」といった。久次郎は力自慢の人であったので「よし!やるか」といって二人で相撲をとった。久次郎が友達を投げ飛ばしたら友達は「やめるべ」といって帰って行った。
久次郎は疲れてワシリのところへ寝た。夜中に眼をさました時は酔もさめていた。家へ帰ろうとして、相撲をとったあたりに置いた祝言の御馳走をさがして見たが見つからなかった。
二、三日して相撲をとった友達に会って、そのことを話すと、友達はケゲンな顔をして「おれは、お前のいう日の晩は家に居た。お前と相撲をとる筈はない」といった。
このうわさが村中に広がり『〓のオドが、むじなと相撲をとり、祝言の御馳走をとられた』と、話の種になった。 (佐々木兼松談)