五、むじなに養われた人

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 明治三十年頃の夏に、〓宇美か、〓宇美の某が突然行方不明になった。村人たちが山や海をさがしても発見出来なかったので、死んだものとして半ばあきらめていた。この頃コブタ(今の戸井漁港の附近)に、鎌歌の〓佐々木の鰛漁の納屋があった。
 山が紅葉して鰛漁の時期になったので、〓佐々木の人が納屋を片づけに行ったところ、行方不明になっていた人が、うつろな眼をして納屋の隅にいた。
 〓佐々木の人が驚いて村人に知らせた。肉親の人々も集って来て、名前を呼んでも反応がなく、いろいろ話しかけてもホンズ(○○○)のない状態であった。二ヶ月もどのようにして暮していたのかと不思議に思い、納屋の中を見ると、魚の骨やいろいろなものの食べからが一ぱいちらばっていた。
 家へ連れ帰って何日かたってから、ようやく正気を取戻した。正気づいてから聞いて見ると、「きれいな女の人が、おれを納屋へ連れて行き、毎晩出て行って食べものを運んで来て食べさせ、楽しく暮していた」と語った。
 人々は「むじなにだまされ、むじなに養われていたんだ」ということになり、不思議な話として後世の語り草になった。