一、湯立式

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 湯立式の由来は、昔武内宿禰(たけのうちのすくね)の弟が「兄宿禰(すくね)に反逆の心がある」と天皇に奏上したので、紫宸(ししん)殿の傍の庭で、武内兄弟がその真偽を判定するために釜立(くがたち)したことが起源だと伝えられている。
 湯立式は古くは庭上での儀式であった。神前の庭の左右に七升焚(だ)きくらいの釜を二ヶ、三脚又はかまどの上に置いて、祭事にかかる前に火を焚いて湯を沸かすのである。これを「釜立(くがたち)」という。
 武内宿禰の古例にしたがい、神に誓って赤心を表わすという意味で、昔から伝承された厳(おごそ)かな儀式である。
 
   順序
①祝詞(のりと) 湯が沸騰し準備が整うと、祭主が祝詞(のりと)を朗読する。
 
②神楽始(かぐらはじめ) 太鼓、笛、手拍子で神歌を合奏する。神楽始の神歌
 ○おもしろや神に御神楽(みかくら)参らする 参らせたりや重ねがさねに 重ねがさねに
 ○おもしろや千代に御神楽参らする 参らせたりや重ねがさねに 重ねがさねに
 ○この宮のいかきのうちに松植えて 松もろともに久しかるべき 久しかるべき
 ○この宮のいかきのうちに葦(あし)植えて 参来る人をよしと呼ぶらん よしと呼ぶらん
 ○よき駒にかいくらおきて庭にたて 庭乗りさせて神迎えせん 神迎えせん
 ○君が代は尽きずと思う神風や みもすそ川の澄まん限りは 澄まん限りは
 ○天地の神もさこそは敷島の 道の道ある世を守るらん 世を守るらん
 ○足引き山の榊葉常磐(さかきばときわ)なる かげに栄ゆる神のきねかも 神のきねかも
 ○神路山榊も松も茂りつつ 常磐堅磐(ときわかきわ)に宮ぞ久しき 宮ぞ久しき
 ○掛巻くも畏こき豊の宮柱 直(なお)き心を空に知るらん 空に知るらん
 ○宮柱太敷立てて君が代は 動かぬ天の下つ岩根に 下つ岩根に
 ○世の為に立てし内外(うちと)の宮柱 高き神路の山は動かず 山は動かず
 ○行いて清く清しと行いて 上(かみ)をも下もにごらざりけり にごらざりけり
 ○入りまさばはやり入りませや障(さわり)なく 障らぬはしに障るくまなし 障るくまなし
 ○よろこびになおよろこびを重ねれば 今日の喜びことにめでたし ことにめでたし
 
③釜清(かまきよめ) 湯の沸騰するのを見て、神官二人が釜の前に向い、各々四垂れのシメを葦に結びつけたものを手にとって、釜清めの祝詞を読誦して釜の中を清める。
 この時の神歌は
  ○御神楽の斉庭のさきに焚き供う 釜清めんと祝いそめたり
  ○幣帛(みてぐら)は千々の剣にまさりけり 釜清めんと祝いそめたり
  ○引き送る水を清しと誰がとる 釜清めんと祝いそめたり
 
④湯立(ゆだて) 祭主が釜の前に向い、神歌の上半句を唱えると楽人一同、楽を奏しながら下の句を唱える。
 この神歌は
  ○指しかざす主(あるじ)のために指しかざす 見れども隈や見ゆるものかな
  ○青幣手草の枝にとりかけて 歌えばあくる天の岩戸を
  ○君が代は天のかぐ山出る日の 輝く限りつきじとぞ思う
  ○高山の末のいおりをかき分けて 豊けき国と和や掌るらん
  ○神風や伊勢の早わせ穂に出でて 花のさかりになりにけるかな
  ○君が代は千代に八千代にさざれ石の 巌となりてこけのむすまで
  ○八雲立つ出雲八重垣つまごみに 八重垣つくるその八重垣を
  ○千早振る加茂の社の姫子松 万代経とも代は変らず
  ○神路山玉串の葉におく露の 恵を受くる大和諸人
  ○行く水の上に祝える川社 川波高くあそびたるかな
  ○湯の上のちりをば誰かとるならん かすみと共に誰かとるならん
  ○立て給え中の湯の花立てたまえ 湯笹を立てて御湯の幸(さち)見ん
  ○新玉や天のぬほこをさしおろし そのしらるるは国となるもの
  ○新玉や天の戸あけて出る日は 神代の春の始めなりけり
  ○新玉の年の始の門松は 君に千歳をゆずり姫松
  ○新玉の年の始の年男 米うちまいて御戸を開かん
  ○新玉の年の始のかし鏡 今年の春をうつし見たまえ
  ○新玉の年の始の玉箒 手にとる人は千代をこそ経め
  ○新玉の年の始めの水くめば 水をばくまで米をこそくめ
  ○春来ればひらの高根の雪消えて 若菜つむべき春は来にけり
  ○春来れば沢辺の柳なぞよれて なびくにさそう春風ぞ吹く
  ○峯に雪谷に氷のまだあるに いそぐ万作さくら花かな
  ○春は花夏はたちばな秋は菊 その姫松は幾代へぬらん
 
⑤湯 上 祭主が笹の葉を二十枚くらい束ねたもの二束を三宝の上に備えておき、その一束をとって湯の中に差し入れ、又別な一束を取って湯の中に入れ、その笹の葉を先ず神前に供え、その後神官及び参詣人に笹の葉についたしずくを散布する。
 その時の神歌は
  ○香久山の小笹手草にゆい来ね 鈴とりそえて仕えまつらん
  ○庭火たくあたりをぬるみ置く霜の とけぬや月の光なるらん
  ○年毎に神をぞ祈る榊葉の 色も変らず折ると思えば
  ○白金の目貫の太刀をさけはきて ならの都をねるは誰が子ぞ
  ○神風やみつのかしわに言(こと)といて 立舞う袖につつみてぞくる
  ○神祭る卯月に咲ける卯の花の 白くもきねか白けたるかな
  ○我が駒は早く行かなん天彦が やいさす国の玉ささの上
  ○相坂をけさ越え来れば山人の千年つけとてきれる杖なり
  ○榊とる庭火の前に降る雪の 面白しとや神も見るらん
  ○とのもりの白くたくなる大御火の よに面白き神あそびかも
  ○ゆうたすきかたにとりかけとる杖も あなたうとしや神の宮人
  ○ふる雪にめぐらす袖も物の音も あいにあいたる面白の夜や
  ○御幣(みてぐら)にならましものをしべ神の 御手にとられてほさりましを

湯立式