昭和十七年北部のアリューシャン列島よりタイ・ビルマ、そして南洋諸島へ広がる戦火の拡大、中国戦線の膠着状態、アメリカ空軍による東京初空襲など、日本は重大な戦局を迎えつつあった。この時に当たり全国の町村は決戦体勢に備えるための行政機構の改革を政府よりせまられている。
次に戦時非常時化の行政について全国町村会から出された『町村決戦態勢確立実行方策要綱』を記す。
町村決戦態勢確立実行方策要綱
一 意議
大東亜戦争を完遂し、東亜共栄圏の確立を期することは我が帝国に課せられた歴史的大使命であって、長期に亘る此の一大聖業を完遂する為、此の際國内諸体制を更に刷新強化し、物心両面に亘る高度国防国家を速かに建設することが不可欠の要件として強く要請されるに至った。
斯の意味に於て政治経済・産業等の諸方面に在っては戦時体制化への再編に向って真摯な努力が払われ、着々其の面目を一新しつつあるに拘らず、独り町村自治体のみ未だ旧態の桎梏を脱し得ずして、其の他能率発揮に斯かわらず困難しつつあることは共に反省すべき重大問題といわねばならぬ。
元来市町村自治体は國家活動の単位団体であって、いわばあらゆる國業処理の要塞であり、国家的に結集さるる、國民組織の根幹である。従って其の機構を強化し國策の完璧を期することは、高度國防國家の建設上寧ろ先決的の根本要件であらねばならぬ。而して之がためには町村制の改正等國の適切なる施策を必要とするは勿論であるが、現行制度下にあっても、町村当局者の創意と努力とに依り運営上直ちに解決さるべき幾多の改革部面の存することを忘れてはならない。
町村当局者は此際須く其愛國的至情を此に凝結し『規則ヲ恪遵シテ』速に町村の体制を整備刷新し、真ニ挙國町村一体の総力態勢を確立して國家目的の達成に遺憾なきを期すると共に『益々自治ノ根抵ニ培ヒ以テ國家無彊ノ康福増進』を期すべきである。此事は現総力下の銃後町村当局者に課せられた重大任務であって、系〓町村会が敢えて町村決戦態勢確立の急務を提唱し、飽迄其の実現を庶幾する所以に外ならない。
二 目標
1 町村の諸勢力を結集して強力なる指導性を確立すること。
2 町村内諸組織を融合し事務の綜合能率化を図ること。
3 各種団体又は組合の諸会合、諸行事を綜合合理化し住民をして食糧増産其他職域に奉公する時間を可及的多からしめること。
三 要項
1 町村に於ける主要団体長を町村長において兼任する機運の醸成に努めること。
2 町村に於ける既設の各種委員を可及的整理し、新に町村制第六十九条により経済部委員及文化部委員を設くること。
●経済部委員は農会・産業組合・森林組合・漁業組合等主要産業経済団体代表者・町村会議員其の他学識経験者の中より選任し、定員を七名以内とすること。
●文化部委員は青壮年団・在郷軍人会・婦人会等主要文化団体代表者・学校長・町村会議員・其の他学識経験者の中より選任し、定員を七名以内とすること。
●委員は産業・経済・文化に関し町村長の諮問に応じ事務の企画に参与すると共に其の執行に挺身協力することとすること。
昭和十七年六月
全國町村会