このように古くから村民に親しまれ、恵山の観光開発上期待されていた恵山温泉(中村温泉)であったが、昭和三十三年八月二十三日の台風二十二号により建物の一部が破壊されてしまい、入浴客も減少していたので、建物はそのままにしたまま廃業された。
その後、更に昭和三十四年九月二十六日、台風十五号により建物が吹きとばされ、とうとう完全野天風呂の姿になってしまった。
昭和三十五年三月二十六日の北海道新聞はかつての中村温泉跡の様子について次のように記している。
結構な湯かげん
恵山の野天ブロ
○春の訪れが早い道南地方はもうすっかり雪どけし、観光の名勝地恵山では山に働く人たちがいで湯にひたりながら疲れをいやすのどかな風景を描き出している。
○昨年の十五号台風で屋根ごとゴッソリ吹き飛ばされたこの温泉はまったくの野天ブロに早変わりしたが雪どけの水がチョロチョロと流れ込み結構な湯かげん、近くの鉱山で硫黄採掘に働く山の男たちが、二人、また三人と山道を歩いてやってくる。
○シーンと静まりかえった山の中腹、こうしてお湯にひたり青空をながめながらいこいのひとときを過ごす。味はまたかくべつ。湯けむりのなかから明るい談笑がこだましている。