〔大舟下の温泉〕

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 もとは臼尻下の温泉といい、通称下の湯という。大舟橋より一五町、大舟川上流の左岸に湧出する温泉である。
 下の温泉の起原年月は不詳であるが、天保一〇年ごろ、臼尻村能戸屋藤右衛門が浴場を設け、茅屋を建てて浴客をうけいれたという。
 その後、土や崖が崩壊して湯壺を逼塞して、ながい年月放任されていた。
 泉質は硫黄泉であり、効能は慢性リウマチス・皮膚病に特効があり、ふるくから近在に知られた温泉である。
 明治一〇年、臼尻村〓二本柳家二代目庄三郎が再び掘鑿して浴屋・浴場を設け、人馬通行の道路をつくり、温泉地六四一坪を官に願い拝借してから、その周辺の森林を伐採し面目を一新した。
 庄三郎は三年間、村民村外をとわず訪れる人に無料で入浴させ、湯治の人には蔬菜をもてなした。客室は八室、収容人数は五〇人である。臼尻村近在からの浴客・湯治客は、四季を通じて賑わうようになった。
 明治から大正にわたり、冬から早春にかけて、赤川村の農家の人たちが山越えして湯治に来た。
  「大船川……我羅(ガロ)川の間にあり……春季の桜花梅花の爛慢として咲き、秋季の紅葉また愛すべきものあり。大船川はヤマメ・イワナ等の釣魚に適し、夏季の避暑地(冬季の湯治など)心神(身)の静養に最も宜し。
 戦争に入る頃から管理を依頼して、営業は休業のままで豊富な熱湯が大舟川に流れこんで久しい。

大舟下の湯温泉 大正7年「町村誌」北海道所蔵