富山の薬屋が、毎年家々を巡ってきた。
よほどの重病というものでない限り、医者にかかることはできなかった。医師のすくない頃、医薬治療費の高額な負担だったからだ。
富山の薬屋は、家庭の日常の腹痛や風邪、頭痛の常備薬としてかかせないものであった。
富山の薬屋は年に一度来村して家々を訪ね、使っただけの薬を精算して、希望や家族の状況などからいろいろの種類と数量の薬を補って置いていく。薬屋さんがくると、薬の出し入れから、帳面のつけ方、矢立の使い方など、子ども達にとって珍しかった。薬屋さんは精算書と一緒に子ども達に紙風船などくれる。
富山に代表された漢方薬は、こうして、交通の不便な漁村の人々には、便利な家庭薬であった。