〔呑香(とんこう)稲荷神社参詣記〕

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 岩手県二戸市の中心街国道四号線沿いにある石の鳥居をくぐると古色蒼然としたたたずまいの社務所があり、石畳をふみ老大樹の繁る中を数十段の石段を登りつめると茅葺の社殿が鎮座している。
 明治初年の建立といわれる社殿に登ると荘厳な祭壇があり、両壁には年代を偲ばせる大型の絵馬が数十枚掲げられている。とくに三十六歌仙の絵馬は故事あり。
 呑香稲荷は戦前、岩手県の県社であった。その昔、南部藩の三稲荷の一の社として、代々藩主が祭主となる格式の高い官祭が執行されていたという。
 神社の境内は、旧九戸城趾で社殿が松の丸にあたるという。九戸城は南部藩が盛岡城にうつる前の南部藩の居城であった。
 社殿のすぐ右の大きな石碑は、郷土の武人相馬大作の書と藤田東湖の詩を吉田松陰の揮毫が刻まれている。その右の奥に大作神社があり、少し手前に書庫(稲荷文庫)があった。とくに目立った老大樹数株は槻(つき)の木という大木である。
 石段を下ると社務所の手前に茶室建築があり、由緒ある槻蔭舎(きいんしゃ)という学問所であるとのこと。

呑香稲荷神社(岩手県二戸市)