【木俣くら】またさきに述べた木舟村の和泉屋の妻女木俣くら(『遠州織物を語る』がはじめて紹介している)は、天保十五年(一八四四)万斛村袴田次郎太夫家に生まれ、安政四年十四歳で和泉屋に嫁した。木舟地方に十反引きの技術を普及したのはこのくら女だという。十反引きとは十反をつづいて織る方法で、すでに天保十五年浜松に居住した大蔵永常が『広益国産考』にその方法を詳しく説いている。大正八年(一九一九)十二月二十六日に七十六歳で亡くなった。
小山みい・木俣くらはいずれも遠州木綿織物史にその名を遺す人たちであるが、その発展のかげには幾多の無名の女性たちの汗と涙がにじんでいたことを忘れてはならないだろう。
小山みい頌徳石灯籠(浜松市 蒲神明宮)