藩の苦慮

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 藩側は一見雲をつかむようなこの事件についても苦慮した。というのもわずか一年半前の弘化三年六月の一揆で、農民たちが代官清水帯刀の首を貰いうけたいと、要求したのときわめてよく類似していたからである。今回の張り紙をみた者、その噂を聞いた者の誰もが、弘化三年六月の一揆の情景を思い浮かべたにちがいない。海老沢と相曽の二人は、この一揆の農民たちを説得し解散させた生々しい体験を持っていた(『破地士等窠』)。
 両名の経験は、代官の身柄引渡しを要求する張り紙に示された領内のけわしい空気をやわらげるのに、十分に役立ったことであろう。