民心の動向を配慮

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 さらに注目すべきことは、有事の際における民心の動向を配慮していることである。民衆が貧窮しては国の将来は危うい。ふだん百姓をあわれんで、彼らの利益となることがあれば、手厚く心をつかって利益を得させるべきである。万一国家の一大事が起こったとき、頼るべきものは民衆である。それなのに領主と民衆とが利益を争って、問題がおこることが多い。有事の際もっとも危険なのは、民衆が領主を憎むあまりに領主の命にそむくことである。深く考えて民衆を富ませて置かなくてはならない、とのべている。【民衆の力】ここには民衆は愚かなものであり、支配者階級の搾取の対象でしかないとした、封建支配者階級=武士階級の愚民観はまったく影をひそめたばかりでなく、民衆の積極的な力をみとめ、近代的な民族国家をつくりだす素地すら見出されると思う。
 水野藩政が浜松領内民衆から、ほとんど一方的にあらゆる搾取をくりかえし、借金返済の約束をふみにじって、いささかの反省も示さなかったこととくらべれば、大きな変化をとげたといわねばならない。
 この岡村の著述はおそらくは藩主正直に提出され、藩の閣老たちの目にも触れたことかと思われる。岡村の言説がどのように藩政の実際とかかわりあうのであろうか、また浜松の人々がどのように内外の危機に対処していったのであろうか、さらに注意してみてみよう。