藩札類

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 【肥し預】安政三年(一八五六)から浜松井上藩が播州の浜松領で使用した「肥し預」はvoordeelig(便益)というオランダ語が印刷された特徴的なものである。この使用法はよくわからないがやはり一種の藩札といってよいであろう。当時井上藩で多少とも蘭語を理解できたのは、村上代三郎・賀古公斎・飯島新三郎・岡村貞次郎らであったと見られるから、播州の井上藩領に関係深かった岡村黙之助・村上代三郎らが、この藩札の発行に関与していたのではないかと推測される。
 【切手】浜松周辺の村方の史料の中に「弐百番切手」「弐拾切手」「拾五切手」などとでてくるものも藩札といってよいであろう。「庄屋役見習許可ニ付……奉行・代官・手代衆まで弐百番切手」をもって御礼廻勤(『高林家日記』嘉永六年十月十三日条)したように贈答の商品券的な性格をもったと思われる。これらの切手は庶民の間に好んで使用されたというよりは、切手をうけとる者が藩権力の側にある場合に、好んで使用されたようである。文久二年(一八六二)九月、井上藩が農民より集めた調達金の返還を、引き延ばそうとしたのに対し、農民が苦情をいうと「左候ハヽ是迄の分元利不残十月中ニ切手ニテ相渡可申」(『高林家日記』)、と農民たちが歓迎しないのを承知で、調達金の返済に使用している。これらの藩札類の発行が井上藩の財政を、どれほど支えたものか不明であるが、各種の藩札類の発行されていたことはかかると思う。