隊員と旧幕臣との摩擦

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 【金指番所】また隊員の岩田九八郎が凱旋して自宅に帰るとき、金指の番所で、出兵の際無届で出かけたから通すわけにはいかない、と通過をことわられた。九八郎は天皇の命をうけて出兵したことを説明し、もし通さないなら直ちに引返して軍務官に訴える、といったところ、役人はあわててぜひ内聞にしてくれるよう懇願した。しかしこれは内聞にすべきではなく、この機会に糾問せよということになったらしい。これは浜松に来ていた軍務官応接方桑原真清に直ちに通報され、東京では軍務官所属の報国隊員加茂備後が、早速金指所の東京留守居役を呼び出して、厳重な訓戒を与えた。この報は至急使で金指番所にとび、色を失った役人たちは、ひたすら岩田九八郎に穏便にはからってくれるよう懇願した。しかし翌十二月六日、引佐郡下の報国隊員宮田十郎右衛門ら五名が、番所に押しかけ、今後絶対不都合のことをするな、とさんざん油をしぼった。役人たちはなおも詫びて、加茂備後にとりなしのため、宮田に東京へいってくれ、と懇願するありさまであった。それより三日目、やはり官に残った鷹森(竹山)民部が、公用で京都より東京に下る途次、浜松に泊ることを聞きつたえた金指番所の役人は、岩田九八郎に同道を願い、宿所に鷹森を訪ねて加茂備後への周旋方を歎願した。
 昨日までいばっていた旧支配層の立場は、完全にくつがえった。いかに新政府の意向を迎えることに汲々としなければならなかったか、この事件はよく物語っていると思う。報国隊員たちは痛快でたまらなかったであろう。