商肆

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 「商肆」 書林は連尺に三軒と貸本屋数軒、錦絵冊子類は田町の京屋。刀劔拵師は宿中所々。鎧屋数軒。茶師宿中数軒。菓子商数軒。とりわけ神明町宮坂屋には東京より移住の職人がいて新奇のものを製す。【飲食店】江戸鮨は伝馬町に、蒲焼は魚町(肴町)に数軒あり風味がよい。蕎麦は宿中数軒あるが極製でなく色が黒い。酒舗は酒店及び溜屋数軒、風味よく魚町(肴町)間渕屋はことに賑っている。髪結床は東京に同じ。【銭湯】泉湯(せんとう)(銭湯)は数軒、男女混浴で二階屋のあるは二軒。【席亭】【芝居小屋】席亭は連尺に定席があって講談落語手踊等交る交る興行し、芝居は伝馬町教光寺(教興寺)境内に方拾間の常小屋があって、明治三年晩秋に尾上菊次郎・尾上多賀之丞・市川九蔵・中村福助が東京からきて舞台開き興行をした。呉服では伝馬町信濃屋があって、紙荒物も商ふ。移住の諸士の用弁を達してくれるので土地不案内の人も困ることがない。【料理屋】料理屋では伝馬町に島屋があって、三階の楼上からは富嶽の遠望ができる。芸妓は揚屋が伝馬町にある。線香壱本の揚代は銀五匁で、妓では伝馬町の飯盛が甲とし揚代銀拾匁、旅籠町は乙で金弐朱である。【衣料店】このほか食物木綿類の商店も日々新奇を競うこと枚挙ができない。鴨江観音の南弐町ほどの海眞寺(快真寺)にある忘帰楼は「南に海上の遠帆、また街道の行人、松間の田園村落一眸に集り、勝景浜松の冠」で「遊客此楼に登りて宴を催し、春日の夕陽を惜しむ事、実に忘帰の楼号空し」くない絶景である。