会社の内紛

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 また『浜松新聞』は「三井系の魔手・会社乗ッ取りの陰謀、白昼公然と旧山葉天野系を圧迫、日本楽器の現状」という見出し(大正十五年一月七日付)で、「日本楽器株式会社は経営の不振を克服するため百八十万円の資金を求め、三井系より専務として箕輪焉三郎を迎えた。箕輪は三井の各会社から却って社員三十名を抜擢し来り、楽器の要職に据え旧山葉並に天野系の社員に圧迫を加えている。これは同会社の事業発展ならびに地方株主としても哀惜の極みである。」(以下略)と報道している。天野社長と箕輪重役との反目は、やがて十五年三月の箕輪重役の辞任となって解決したが、つぎに起ったのは天野社長の経営を非とする重役宮本甚七・小竹禄之助・間渕栄一郎らと天野社長との対立であった。天野社長はこうした反天野勢力に対抗する上からも、争議団には絶対負けられぬ強い姿勢をとったのであろう。
 
(表)大正15年 日本楽器争議経過表(自4月21日 至7月26日)
月日組合の動き(争議団・その他)使用者・官憲の動き
4.21日楽従業員12項目の嘆願書を天野社長に提出
22内輪同志で円満解決したいと天野社長語る
23社長,従業員代表3名と非公式に会見会社,突如慰安会を歌舞伎座で開催
24八幡町に職工代表100余名集合善後策を協議
25代表7名,天野社長らと会見,交渉始まる天野社長・小竹重役ら職工代表と準備会談
26改めて会社へ要求書提出。午後からスト突入会社重役会開催,背後関係を検討
27スト資金給料の一日分カンパを決定27日午後から欠勤の者,スト参加者とす
28三田村ら評議会幹部来浜。市内へ街頭宣伝市内各工場経営者結束。警官150名到着
29争議部長本沢ら会社に交渉申入れ,社長拒絶労資協調会原田嘱託,調停の為社長と会見
30会社側,罷業職工に26日までの賃金を支払う
ライオン館にて争議真相発表演説会開催
5.1浜松合同労組主催で浜松最初のメーデー開催
2争議団本部をライオン館より元城町山住神社に移す。労働講座開始
4八幡神社で慰労大運動会・労働講座開催県大串高課長来浜。県社会課鈴木会社訪問
5右翼介入,三田村ら浜松署へ右翼の取締方を申入れる天野辰夫ら日本主義労農同志会の壮漠,市内にビラ撒布
6争議団全員中田島海岸で慰安会。夜演説会開催,ビラ配布,右翼も対抗してビラまき会社側全市へビラまき
7ライオン館にて会社糾弾大演説会開催渡辺浜松市長,浜松警察署長と打合せ
8市長ほか,伊東知事らに調停方を依頼
9争議団宣伝ビラ街頭で配布天野社長ら浜松署で毛利警察部長と懇談
10ライオン館にて第三回糾弾演説会開催浜松市議会開会,天野議員争議経過を説明
11争議団争議日報を発行200名は就業申出あり,と会社側発表
12後藤兼太郎ら2名ピケで検束さる資本家の団結はこれが最初と協調会早川談
13争議団,正門前のピケを強化説得につとむ
14帝国製帽など14大小工場従業員名・争議団浜松合同名にてビラ配布復帰職工105名と発表
15横浜工場労働者要求書提出
16会社正門前の警備団本部を復活鮮人相愛会,会社を激励。労農同志会演説会開催
夜高町秋葉神社で集会中の争議団員29名逮捕さる
18暴力団,元浜町の争議団本部を襲撃
19上村弁護士ら東京より来浜復帰職工30名6台の自動車でビラまき
21「17日夜来争議団に対する官憲の圧迫は極点に達す」と報道会社側始めて操業,200余名と発表
22争議団代表須藤ら横浜工場にて代表と会見
23市内3か所で大演説会会社楼上にて復帰職工の慰安会。18名解雇
24新聞,労農同志会を批判
25横浜工場怠業状態に入る重役会,温情主義を排すと決議。21名解雇
26横浜工場全面解決,要求どおり通る全国大会社から会社側へ激励集ると報道
27職工の争奪戦はげしくなる。労働者側団結小山重役,横浜工場へ急行
2828名解雇申渡す。計98名と発表
29争議団幹部大検挙,98名。争議団要求書提出
30争議団本部大阪にて委員会開催支援を決議。東京・大阪などでも検束さる会社側,大検挙をまって争議団員宅へ1日正午までに復帰する様最後通告を郵送
31検束者のうち争議団員釈放さる
6.1会社側の復帰申込み締切日,復帰者殆どなし
2警察の弾圧を市民非難,争議団に同情集る
3合同労組傘下の労働者6日を期し総示威運動を決行と決議伊藤知事,天野社長を招電,市長・中村代議士らと静岡にて毛利警察部長と密談
4第一次調停開始
7争議団あくまで斗う旨声明会社側,復帰職工に待遇改善策を発表
8評議会争議部を浜松に移し,奥村甚之助を臨時争議部長に任命
9復帰せぬ800余名を退職者とし名簿を削除
10争議団・市民等5,000名の署名をもって内相に面会申入
11争議団・市民代表等浜口内相に面会
13竜禅寺観音境内で第二回慰安会。デモを行う
19争議解決促進連盟結成,趣意書を配布
21争議団従業員大会演説を佐藤町で開催
22真相発表大演説会を名残町橋井方で開催
23争議団,株主総会をめがけてデモ,60名検束株主総会,天野社長責任追及さる
24労農同志会,争議解決促進連盟を糾弾
26争議解決促進連盟,非難に対し声明書発表
27市長・高柳・大野木ら調停に関し協議
28第二次調停市長ら争議団代表南喜一他6名と会談
29争議団員,争議解決条件について協議す。争議資金捻出のため行商隊活躍市長・中村代議士,会社側・争議団双方と会談,物分れに終る
30デモ隊5名検束
7.1浜松合同労組,第一回拡大執行委員会開催
2争議団,浜松合同労組の名で官憲の選挙干渉に対し檄文を発表。争議団員5名検束
4職工の新規募集に関し声明文発表
6「調停運動経過と吾等の態度」と題する声明文を発表13班詰所より投書箱押収
7従業員中在郡軍人に在籍の者,大和会を組織
8「調停を頼るな,実力で行け」と争議団員に警告
9真下・上村両弁護士調停に関し知事と会談
10毛利警察部長ら労資双方の意見を聴取
11浜松合同労組大会,役員改選ほか6件を可決
12会社側,協調会大月同席のもとに市長と会談
16小竹重役邸にダイナマイト投入。27名検束
17検束者70余名,暴力行為取締令か騒擾罪を適用するか研究中
1817名,騒擾罪で送局
19放火予備罪で7名に拘引状
20争議団本部・第7班詰所襲わる
2128名検束20日に争議団本部・詰所を襲った4名検束
22「争議団遂に怒る」のビラ配布
23争議団は天野辰夫対大橋京之助との間における解決案及び添田調停案を発表
246名検束
26行商隊の1か月の売上げ760円85銭となる

(『静岡県労働時評5号』)