七月十六日 浜松市高町の日本楽器会社監査役小竹禄之助の邸宅で、十六日午前三時頃に突如表玄関口の飛石の傍らに、何者かの手に依り鉱山用のダイナマイトらしきものが投下され、一大音響とともに炸裂した。浜松署から高野署長を始め高木司法主任以下刑事数名が、現場へ急行して実地検証を遂げ、付近に散乱したダイナマイトの導火線の破片を唯一の証拠物件として押収するとともに非常線を張って犯人捜査に全力を傾注したが、未だ犯人は縛っていない。浜松署では、犯人は周囲の事情より推して日本楽器争議団員の仕業と睨み、目下その方面に亘って大活動を続けている。被害者の小竹重役の談話として、「言論に於ては堂々と争う迄に知識を有せぬのであるから、こういう暴力で争うようになるのでしょう。」このダイナマイト投入事件は、その他の暴力事件と共に争議騒擾事件として裁判に付された。この事件の爆発規模について『浜松新聞』は、付近の人々は何れも爆音を聞かなかったとのことであるから、或は伝えられている程の大袈裟のことではないであろうと一般から言われていると報道している。なお争議騒擾事件の公判(十二月三日)の模様を、つぎのように報じている。
日楽争議関係図
【解決促進策】被告平野徳重は、爆弾の入手につき蓮台寺鉱山の相馬宗七より、ダイナマイト四個、導火線・雷管等をゆずりうけたものである、と述べ、続いて被告西本一二は会社側でも殊に腰の強い楽器重役小竹禄之助に脅威を感ぜしめ、解決を促進せんと雷管のみ破裂するように投げ込んだもので、邸宅を爆破し人命に害(そこな)はしめるためではなかったと述べた。つぎに被告岡島千里(二十二歳)は、争議団としては解決の曙光が見出されないので遂に七月十六日、決死隊を募り一隊は鴨江観音に集合して渡辺市長宅を襲撃し、他にも同様中村藤吉・楽器萩原木材部長・林楽器支配人邸を、亦一つの決死隊二十余名は、栄町の金山神社の薄暗がりに集合して警官が市長宅の暴動事件の鎮撫に出動している留守を窺い、警察署を焼き打ちしようとしたのである(この事件で二十七名が検束された)と陳述した(十二月四日付)。